• 2007年08月04日登録記事

今日のエリザ語りは、公演が終わってしまう前に、予告通りルキーニの事を。

音月桂演じるルキーニは、これ以上ないほど狂人。
映像で観た瀬奈ルキーニと霧矢ルキーニは狂言回しとしての演技を重視し、飄々としているように感じたのに対し、一幕から通して狂気を纏っていました。

登場時点からして、目が爛々として、落ち着き無くふらふらして、だらしない笑い方で、どうみても危ない男だったルキーニですが、狂気を実感してゾッとしたのは、不思議な事にミルクのシーンでした。
このシーンでは、ルキーニがミルク売りに扮してウィーンの街角に現れます。殺到する人々の前で、けれど樽は空っぽ。赤子や病人がいることを口々に訴える人々に対して、あのセリフ。
「ないモノはないんだ」
追い払うようにでも、あざ笑うようにでも、その役者が解釈したルキーニの気持ちで言って構わないだろう、さほど重要と思えないセリフです。
それを、音月ルキーニは吐き捨てるように叫んだ。
その言い方に突然、このルキーニは自分の機嫌で人を殺せる、人間としての螺子がどこか外れている男だと感じました。これは私のただの直感です。これだけ小さな台詞だと、回によって、セリフのニュアンスは違うかもしれません。
でもあの回の舞台、ミルクを買いにきた女が、あともう一言ルキーニへ言い募ったら、ルキーニはどうしただろう。
そう思うと、酷く恐ろしい物を感じるのです。