• 2010年登録記事

アーネスト・ヘミングウェイ著「誰がために鐘は鳴る」上巻のみ。
前回のヘミングウェイ作品でも苦しんだ「主人公の一人称なのに、何を考えてるのかさっぱり分からない」点に今回も悩まされています。
また今回は、ゲリラの一人の言葉使いが意味不明なところがあり、最初は何度か引っ掛かりました。原語に忠実に訳すとこうなってしまうのかと思いますが、日本語として分かり易く書いて戴けないものでしょうか。
翻って考えると、児童文学の訳はどれも秀逸だと思います。

本の粗筋などでは恋愛小説のように紹介されているけれど、今のところ主人公は鉄道爆破のことを意識の一番上に持ってきているので、戦争小説の側面の方が強く感じます。
「武器よさらば」同様、主人公とヒロインが恋に落ちることに理屈がないのが面白いです。
雪の中持ち場で待っていたアンセルモ老人と、迎えに来たロベルトのシーンは少し惹き込まれました。

次回宙組本公演の予習として読んだのですが、場面展開が少なく、閉鎖空間での人々の思惑の交差が主と言う感じなので、これをどう一本物の舞台として成り立たせるのか、不思議です。

「変な話じゃないか」
 しばらくして興奮の波が通り過ぎると、一人が疑問の声をあげた。
「俺たちの中の、誰がやったんだ?」
 ナチスの将校殺し――そんな大事件を計画し実行した者を誰も知らないとは、奇怪しなことだった。
 レジスタンスも一枚岩ではない。だが、大金星を挙げて沈黙している者がいるだろうか。
 彼等は顔を見合わせた。
「警察連中は、北アフリカ地域の同志を追ってるらしい」
「集会に踏み込まれたお返しか?」
 英雄、ヴィクター・ラズロと面談するためこの街までやって来た彼等が、目的を半ばも果たせず、それどころか不慣れな土地に迷って幾人かの同志を失う羽目になったあの夜の騒動は、確かに火種として十分な出来事だった。
「だったら署長を狙って欲しかったぜ」
 集会に踏み込んだのは警視総監のルノーであるし、あの立派な腹が職権で肥やされていることは衆知だ。
「どうかな」
 応えたのは小さな呟きだった。
 同志たちから問いかけの眼差しを集め、彼は心の内に落としたつもりの言葉が音になっていたことに気付いたらしい。
 軽く肩を竦めると、手にしたコアントローで乾杯して言った。
「署長が死んで、ドイツ野郎が生きていたら、俺たちはここで酒を飲んでられないだろ」


今更な宙組公演「カサブランカ」SS。個人的にはまだまだネタがあるので、今更と言うわけでもないのですが。
映画よりストレートな二人の友情からすると、終幕後の翌日、ルノー大尉がすることはリックの店営業停止命令の撤回だと思います。
もちろん、あの店で飲むのが好き、という個人的な理由も含めて。

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写真集「I'm here」発売。

個人的には、大空祐飛の写真集と言うより、写真家蜷川実花の写真集で、モデルが大空祐飛である、と言う印象を受けました。
普通の写真集が割と素顔重視なのに対して、厚塗りメイクに派手な衣装で、雰囲気がコスプレっぽいのが要因でしょうか。同じ写真家の手による水夏希写真集も独特の雰囲気でしたが、日常を離れた非日常の光景程度でした。今回はそもそも世界が違う感じ。
過去一年に演じた役を彷彿とさせる写真の合間に、プライベートスナップ風の写真が挟まっている構成も、そんな効果を狙っているのだと感じます。
写真集が出ると聞いて想像していたものとはだいぶ違うけれど、そんな予測の付かないところに脱帽です。
また、撮影時期が広い期間に渡っているためか、シチュエーションによって別人のように感じるのが面白いですね。
特に、表紙でも使われている「銀ちゃん」イメージの写真は、一度観た役なのにまったく知らない表情をしていて、これは既に演じた花組の銀の字ではなく、これから演じる宙組の銀四郎なのだ、と思わされました。

以下は、ざっとした感想。
プライベートショットのメイクがもの凄く「女の子」で吃驚。表情が柔らかいです。
ソラ@シャングリラ風扮装。全身写真は、小物がゴチャゴチャし過ぎなのと、腰の位置に変な布巻いてるせいでスタイルが悪く見えるのが残念でしたが、寝転がってるパターンはどれもお気に入り。
リック@カサブランカ風スーツ。でも、かなり若い雰囲気です。このストライプスーツの写真のページは、全部お奨め!
続いて、ファー付き衣装。元ネタが謎です。シチュエーションはリックの続きのようですが、薔薇の花を散らしちゃったりしてセンスがゴシック調。この写真は殆ど伏目ですが、目力の強い一枚があり、ドキっとします。
ホゲ@太王四神紀風扮装。特徴的な鎧の衣装ですが、最初にこのページを開いた時は、「セフィロス@FF7!?」と仰け反りました。
なぜか鬘が銀髪混じりのストレートで、目元を完全に墨で塗り潰したもの凄いメイク。もしかすると、茨木要素を加味してるのかなぁ……。とにかくメイクが特殊過ぎて、インパクト大。私としては、このメイクだと表情が一定になってしまうので、普通のお化粧で見たかった写真です。
倉丘銀四郎@銀ちゃんの恋風扮装。やや黒塗りに見えるメイクです。最後は銀ちゃんらしい柄×柄扮装で渋谷の街を歩き回ってるところを撮影したもののため、作っていない変顔ショットが結構あります。この格好をして渋谷で撮影だなんて、私なら絶対拒否だけど、本人的には面白がってやってそうな雰囲気を写真から感じました。

6年近く前から温めていたユアンさま過去ネタ。
その間に、ファンダム、ラタトスクが発売され、過去ネタも未来ネタも多いに公式と乖離してしまいました。


【逃亡】
 冷えた土の感触で目が覚めた。
 重い瞼を持ち上げると、闇の中で仄暗い月が揺れていた。
 記憶を取り戻すのに時間は必要なかった。
「……莫迦どもめ」
 嗤った拍子に、頭部が痛み眩暈がして吐き気が込み上げてくる。爽快さとは程遠い。だが、ユアンは衝動に任せ笑い声さえ上げてみせた。それを抑制するものはなにもない。数時間前まで彼を拘束していた魔科学研究所は、今や高い塀のあちら側にある。
 彼は自由だった。
 魔科学研究所と言う名の檻に閉じ込められた彼等、思考する家畜は、マナを人間でも使える兵器に転用する仕事に従事させられる。だが辛い仕事に反し、与えられる食事は一日一回、ほとんど中身のない水粥だけだ。皆、飢えていた。ユアンと共に捕まえられた同族の内、半数が研究への従事を拒否して殺され、残りの半数は栄養失調のため動けなくなり、殺された。
 ユアンが無謀な脱走に乗ったのは、若者らしい短絡さで、どちらにせよ死ぬならば人間共の鼻を明かしてやろうと決意したからだ。成功すると信じていたわけではない。だから塀の頂上で兵士に見付かった時は、これですべてが終わりだと覚悟した──はずだった。
 雷銃に撃たれ、塀から落下した彼を兵士は死んだと勘違いしたのだ。
 なんと言う愚かさ! そしてその愚かさに救われた己の、なんと幸運で惨めなことか。
 水を含んだ土が指先に触れる。天の涙雨か、地に伏した同族の血の池か、定かでない。
 ──宙は遠い。あの彼方に魂の故郷があるのだろうか。最早永久に思考する事がない同族たちの、還るべき星が。
 祈る言葉を持たぬ彼は、ただ口を噤み、その場から立ち去った。


皆さまTOSプレイから数年経ってお忘れかもしれませんが、ユアンさまには雷の耐性がありますよ!(そんなオチ)

荻原規子著「薄紅天女」

勾玉三部作の内「空色勾玉」「白鳥異伝」は恐らく小・中学生時代に読んだと思うのですが、どういうわけか機会を失して以来、この「薄紅天女」を読む気力が失せていました。最初の数行だけ読んで、合わないような気がしたんですよね。
今回改めて読み始めたら、どうして読まなかったのか分からないくらいするする読み切ってしまいました。
一部はちょっと物語の動きが悪いようにも思いますが、二部に入ってからは止めどころがありませんでした。

ところどころ喪失の予感を漂わせていましたが、シリーズ完結に相応しい大団円で安心しました。
いや、勝総の死は酷い理不尽だし、結末後のアテルイの最後なども憤然たる気持ちになるのですが、物語全体が、そういった事象のすべてに諦観の念を持っているようにも思え、怒るとか哀しいと言うことを持続させられませんでした。
武蔵の国に辿り着けなかった青年と娘の子供が、愛する人を国に連れて帰ったと言う小さなハッピーエンドを心地よく受け取れば良いのかなと。
苑上が、思い悩むところはあっても自分で決断を下す少女で、荻原規子先生作品らしい、好きになれるヒロインでした。