五十音順キャラクター・ショートショート【み】
→ルールは2012年12月17日記事参照
「ミュージカル出演?」
そう聞き返しながら、ボクは「961プロなら絶対に持ってこない仕事だな」と思っていた。
公演期間は勿論、稽古として事前に1ヶ月近く拘束される舞台は、アイドルにとって旨味のある仕事じゃない。苦労と時間は掛かるくせに、高いチケットを買った一握りの人々しか見ないのだ。人気を出すためには、不特定多数の目に触れるテレビ出演。これに尽きる。
子供のボクでも考えるこのくらいの計算を、事務所がしないはずもない。
つまり、いまのボクを使ってくれる局はないって言っているのも同じだ。
渋ってるボクの代わりに、北斗くんが資料に目を向けた。
「ふーん、真夏の夜の夢、妖精パック。翔太にピッタリじゃないか」
ボクは自然と、問い掛ける視線になっていたらしい。
「シェイクスピアの戯曲。知らないかな?」
北斗くんは、酷い。
ボクだって、シェイクスピアくらい知っている。
「『ロミオとジュリエット』を作ったガイジンでしょ」
ボクの回答を、60点くらいかなぁ、なんて笑いながら、北斗くんはボクが演じるパックについて教えてくれた。
「飛びっきり可愛い、イタズラっ子の役だよ」
その声は、やってごらん、と言っているように聞こえて、ボクは複雑な表情になってしまった。
もちろん、仕事を選べる立場じゃないし、声がかかるだけ御の字だ。いつだったか、お芝居をやってみたいと言ったボクの言葉を、プロデューサーが汲んでくれた結果だということもわかっている。
だから、断るつもりなんて最初からなかったのに、なんだかボクが駄々をこねたのを、北斗くんが優しく諭したみたいな状況になっている。
北斗くんは、ズルい。そう思ってしまうのも、仕方ないはずだ。だって、ボクをダシにして、優しい理想的なお兄さんを演じているんだもの。
「……北斗くんがそういうなら、やってみても良いかな」
仕方なく、ボクはボクが我儘を引っ込めたようなフリでそう答えた。
プロデューサーの安堵の声と、北斗くんのウィンクがその演技の報酬。
ああ、ボクって、なんて優しい理想的な弟なんだろう!
みんなの弟
……御手洗翔太(ゲーム「アイドルマスター2」)
翔太は、多少作為的なところが魅力だと思います。
で、成長期の彼がいつまでも弟設定でアイドルをやっていけるとは思えないので、歌って踊れて演技もできて度胸があるところを活かして、舞台俳優に進んで欲しいな。まぁ、もしかしたら、十代の内に芸能界をさっぱり辞めてるかもしれませんが。