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マーガレット・ミッチェル著 大久保康雄・竹内道之助訳
「風と共に去りぬ」新潮文庫版全5巻

【あらすじ(最後までのネタバレ有り)】
南部の大農園の娘スカーレットはアシュレに恋していたが、彼とメラニーの婚約を知り、当て付けでメラニーの兄と結婚する。折しも南北戦争が始まり、夫は戦地で病死。南部は敗北し、彼女は飢えを凌ぎ故郷を守るため、金が必要だという持論を持つに至る。やがて妹の婚約者を奪って結婚した上、自ら商売を始めて旧南部社会の顰蹙を買う。更に彼女の行動が原因で二番目の夫が死に、南部の金を盗んだと噂される無頼漢レットと三度目の結婚をすると、古い友人は離れてしまった。スカーレットの奔放な生き方を認めるのはメラニーとレットだけだったが、メラニーは流産で死んでしまい、レットもアシュレを想い続けるスカーレットへの愛に疲れ、去って行く。ようやくメラニーへの依存とレットへの愛を自覚したスカーレットは絶望するが、明日からまた出直そうと立ち直る。

映画未見。
勿論、有名な作品なので、基本的なこと——スカーレットを巡る四角関係を描いていること。舞台は南北戦争時のアメリカであること——は把握していました。そのため、「これが噂に聞くカーテンでドレスを作るシーンか」など、要所で頷きながら読みました。
ある意味、答え合わせをしているような読書でした。
ゲーマーらしく語ると、散々レビューを読んで知った気になったゲームを、実際に遊んだときの感覚に近いかもしれません。

想像以上に、スカーレット・オハラが馬鹿な小娘で、最初から最後までイライラしました。中盤以降、「いつになったらしっぺ返しを喰らって改心するか」を期待しながら読んだことは否めません。
そんな次第なので、南部の人々に受け入れられようという魂胆で、レットがわざとボニーの世話を一人でやって、スカーレットの評判が悪くなっても知らん顔してる辺りは痛快でした。
ところが、どんなに失敗しても、彼女は懲りないんですね。最後まで「嫌なことは明日考えよう」で終わってしまうとは思いませんでした。
ここまでくると、呆れつつ感心してしまいます。

登場人物には文句を付けつつも、過酷な時代を激しく生きる女性、恋愛、戦争の凄惨さという要素が絡み合って、非常に面白かったです。
最大の収穫として、南北戦争がどんな戦いだったのか分かりました。本作は南部側の視点で描かれているため、北部側の主張も知りたくなりました。

ペイトン著「バラの構図」

【あらすじ(最後までのネタバレ有り)】
田舎に引っ越した少年ティムは、自分と同じ「T.R.I.」という頭文字が入った絵と墓を見つけてから、その少年トムの幻を見るようになる。幻に導かれ、60年前に亡くなったトム少年の生き方と死の理由を探るうちに、ティムは自分の生きる道を見出だしていく。

ペイトン作品で、初めて読了後にホッとしました。
とても等身大で、現代日本の青少年にも通じるリアルな感覚のお話だと思いました。

絵を描く才能を持っているけれど、金持ちで恵まれているけれど敷かれた道に迷っている少年ティムと、貧乏で暇なしで苦労しているけれど特に生活に疑問を持たない少年トムという2人が交互に描かれ、似ているところ、違うところを様々に感じさせます。
トム側のエピソードは、早世するとわかっているためか、どこか暗い寒さがずっとあり、モノトーンの世界で脳裏に描かれるのが印象的でした。

最終的に、ティムは親に敷かれたエリートコースは拒否するものの、貧しい労働者の生活を良しとして淡々と生きることもない、どちらも求める自分を認めているところが良いと思いました。

ペイトン著「運命の馬ダークリング」

【あらすじ(最後までのネタバレ有り)】
貧しい家庭の末子ジェニーは、トラブルメーカーの祖父が競り落としたサラブレッド・ダークリングのため、厩舎員として働くなるようになる。母との軋轢や彼女以外の人間には懐かない馬に苦労するも、遂にダークリングがレースで優勝し、莫大な賞金を獲得する。だが田舎に一人残された祖父が癌であることを知ったジェニーは、恋人とダークリングの渡米を見送り、一人祖父のもとに残ることを選ぶ。

半生を捧げた競走馬に報われるシンデレラストーリーかと思いきや、最後に寂しさが残ります。
ただ、このお話はあくまでジェニーの人生の一部であって、今後はまた未来が開けるかもしれないんですよね。
確かに、恋人のゴダードとは、離れ離れになったら巧くいかないだろうけれど、その代わりに半分血の繋がっている弟という、絶対に消えない絆を手に入れたわけだし、どちらがいいのか分からないなぁ。

2作目ですが、非常にペイトン作品っぽい感じ、という印象を受けました。
女性たちはエゴが強く、結構スキャンダラスな要素もあり、好き嫌いで言えばあまり受け付けないタイプ。
それでもジェニーは主人公なので心情がしっかり描写されていて、それなりに共感もできるのですが、主人公の母親は最後まで苦手でした。
ちょっと感心したのは、祖父マーフィーの描写です。本当にトラブルメーカーで、身近にいたら勘弁してほしい感じですが、どこか愛嬌もあって本気では憎めませんでした。

そして、単に馬愛好家だった「フランバーズ屋敷の人々」と違い、こちらは馬で生計を立てる話なので、馬の描写に一層力が入っています。
私は競走馬育生を描いた漫画「じゃじゃ馬グルーミンUP!」を読んでいるので、そちらで見た厩舎や競りのイメージと合わせながら、楽しく読めました。

K.M.ペイトン著、掛川恭子訳「フランバーズ屋敷の人びと」全5巻

【あらすじ(最後までのネタバレ有り)】
《第1部》孤児クリスチナは、遺産を狙う伯父に引き取られ、フランバーズ屋敷で成長する。屋敷には、狩猟を愛する粗暴だが魅力ある兄マークと、飛行士を目指す革新的な弟ウィリアムの二人がいた。
《第2部》クリスチナはウィルと駆け落ちするが、彼の飛行機への情熱は理解できず、墜落の恐怖に苛まされ、愛と苦悩の日々を送る。
《第3部》ウィルは墜落死し、未亡人となったクリスチナはフランバーズ屋敷へ戻り、自らが屋敷を切り盛りしようと奮闘する。やがて、少女時代から彼女を支えてくれた使用人ディックへの愛を自覚し、二人は結ばれる。
《第4部》労働者階級で真面目な夫ディックと、上流階級で享楽的な生き方が身に付いているクリスチナは、次第にすれ違っていく。クリスチナは、戦争で傷付き帰ってきたマークを看病するうちに、彼を愛していることに気付く。

当初は3巻までの三部作として発表され、12年後に4・5巻から成る第四部が執筆されています。
5巻まで一気に読み終えた現在、第三部までと第四部で、感想を分けるべきだったと後悔しています。
1・2巻はクリスチナというキャラクターが生き生きと魅力的で、3巻までは少女の成長物語として受け入れられます。しかし4・5巻は彼女を批判せざるを得ません。
その時々で最善を尽くしたつもりが裏目に出た、という全体の流れはあるのですが、思慮が浅く軽卒とも言えます。また、2人の男性の間で揺れるクリスチナの心情も分かるけれど、農場を始めたらディック、社交界に出たくなったらマーク、とその時々で都合の良い男性に擦り寄っているようにも見えて残念でした。
階級社会を体感する資料としては、第四部にも見所があるかなぁ……。
もっとも、私のこの感想は、尊大なマークが好きになれないという理由も大きいと思います。

ちなみに、一番驚いたのは、第4部のクリスチナがまだ20代前半だったということです。
彼女の思考は、もう中年になっているように感じました。車に乗ってレースに出場してしまうくらい新しいもの好きだけれど、実際は昔ながらのまま変わらないでいて欲しいと思っていて、決して先進的な女性じゃないんですよね。

ということで、読み終えた巻への散々な印象語りから始まってしまいましたが、1・2巻は素晴らしい作品でした。
特に、2巻で描かれるクリスチナの恐怖とウィルに必死で付いて行こうとする愛は、若さと愚かさとが愛おしくなる具合です。戦争が始まり、世の娘たちがみんな自分と同じ(恋人の死を怯えて暮らす)ことになったと安堵するシーンはゾクッとしました。
飛行機黎明時代の昂揚感もあって、外に向かって飛翔して行く勢いもありました。

風景、馬、飛行機の描写は全編通して魅力的で、20世紀初頭の古き英国を感じることができるシリーズでした。

アーサー・コナン・ドイル著 日暮雅通訳「バスカヴィル家の犬」(新訳シャーロック・ホームズ全集より)

【あらすじ(最後までのネタバレ有り)】
ダートムアの大富豪バスカヴィル家には呪いの伝説があり、それを裏付けるかのように当主が奇怪な死を迎えた。ワトソンはバスカヴィル家の後継者ヘンリー卿に同行してダートムアへ赴き、見聞きした事をロンドンのホームズへ書き送る。やがて、ワトソンは荒野に潜む男がいることに気付くが、それは犯人の目を欺き証拠集めをしていたホームズだった。2人は依頼人を囮にして、遂に犯人を逮捕する。

シャーロック・ホームズ作品は、子供時代に「緋色の研究」を既読ですが、記憶に残っていません。
関連作品中、最も人気がある長編作品との呼び声が高い本作を読んでみました。

意外にも、ホームズはあまり登場せず、ワトスンがメインで活躍します。ワトソンが自分なりに推理しながら地道な捜査を展開するのが面白かったです。
ただ、ワトソンが村人を「教養がない人たち」と評する箇所があり、こんな毒舌な人物だったのかと驚きました。
それにしても、こんなに四六時中ホームズの手伝いをしていたら、ワトソンはいつ自分の仕事をするのでしょう。開業医なんですよね?

犯人を推理する余地は余りなく、最初から怪しい人物がそのまま犯人でした。そもそも、ミスリードを誘うほど多くの人物は登場しませんでした。そのため、ミステリとして面白いのか否かは良く分かりません。
ホラー(猟奇小説)や冒険小説のような味わいの方が大きい気がします。
結末は呆気ない感じ。依頼人は生命を守られたとはいえ、心を病んでしまったので、後味の悪さもあります。
風景描写などは非常に凝っていて、ダートムアの荒涼たる大地が思い浮かびました。

解説に、この作品の成り立ちに諸説あることが説明されていました。正直なところ、本編以上にこの話が面白かったです。