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 女は死の床で呪いの言葉を吐いた。
 プルキルは、若者の瞳が薄暗い雲に覆われ陰っていく様を見た。後は、その背を押すだけで良かった。伸ばした手で触れると、チュシンの星の祝福を受けた魂は抵抗なく闇の中に落ち、その輝きを失った。
 これで、王は半身たる将を失った。
 さて、プルキルがもぎ取った牙は、本来の主を喰い千切ることが出来るだろうか。


プルキルは、ホゲがチュシンの王でないと完全に発覚した二幕後も、ずっとホゲに対し「ホゲ様こそチュシンの王」と吹き込み(そして嫌がられてる/笑)、かなりの財をつぎ込んでるようですが、どんな思惑でホゲを王にしようとしたのでしょうか?
パターン1・最初は本気でチュシンの王だと思っていた
パターン2・最初からチュシンの王ではないと思っていたが、利用する為に唆した
あれだけ大きい存在感を放つ悪役で、キハを除けば作中唯一の魔術士であるプルキルが、パターン1「真の王を読み間違った」とするのは、ちょっと悲しかったので、パターン2「初めから企みごと」で検討した結果が、このお話。
一応、脚本は変えずに、この方向で解釈する事が可能でした。
真のチュシンの王は、そう容易く思い通りに動かせないだろうと踏み、ホゲを王にすることで、目覚めた神器だけを頂こうと言う画策。うん、そうすればプルキルの恐ろしさ、強さは揺らがない。星組版はこの方向でいきませんか!?

女のように軟弱な上、文字も読めない愚鈍な王子――
城壁の向こうから聞こえる密やかな囁きの意味を理解した途端、ホゲは弾かれたように飛び上がり、陰口を叩く連中をきつく懲らしめてやろうとした。
その腕を掴んで引き止めたのは、噂の王子、他ならぬタムドクだった。
「……いいんだ」
大きな瞳を細め、困ったように微笑む。その表情と向き合うとホゲは何も言えず、諦めと共に槍を放り出すと仰向けに寝転んだ。
実のところ、タムドクが揶揄にされている現場に居合わせるのは、これが初めてではない。最初の時こそ、タムドクの為に憤ったと言うのに当人が止めるものだから、次第に彼への腹立ちが勝って、取っ組み合いの喧嘩をしたものだけれど、今はタムドクが決して噂を否定しようとしない事が分かっているから、その意志を尊重してホゲも押し黙るのが常だった。
しかし釈然としない気持ちは否めず、ホゲは天を睨んだ。
大人達がもっともらしく話している話は嘘だらけだ。
タムドクは賢い子供だった。“自主練”の他は、よく書庫で物語を読んでいることをホゲは知っている。話して聞かせた城壁の外の出来事も良く覚えているものだから、彼が王宮の外に出た事がない事実を時折忘れてしまう。打てば響くように返る会話の楽しさは、他の者との会話がつまらなくなるほどだ。
――槍の腕が上達しないことだけは本当だったけれど。
ホゲに倣って槍を放り出し、寝転がったタムドクは、幼い頃と変わらず、ホゲの不出来な弟子だ。
構える姿に限って言えば一端の武人に成長したが、いざ立合うと、最後に必ず大きな隙を作ってしまうものだから、たった一度を除いて、ホゲの白星を示す小石ばかりが積み上げられている。
それでも、彼が本当は良い友であることは本当だった。
「……いいんだよ」
もう一度、タムドクが言ったので、ホゲは薄く頷きそのまま天を見上げていた。


前述の通り、原作ドラマは見てないので、あくまで花組版太王四神記からのイメージ。

役者の年齢や子役時代の身長差のこともあり、ホゲがタムドクより兄ぶって見えるのですが、要は出来の悪い弟分に優越感のような感情を持っていたのではないかなと。
だから、武道大会で一度槍の仕掛けを暴かれた後でも、あれは「まぐれ」くらいの認識で、実戦で負ける筈ないと思ってる。
でも実際は、タムドクは親友のホゲにもずっと完全な素顔は見せてなかった上に、それが見抜けていなかったホゲは、結局空回り人生なんだなぁ。

本記事はFLAMBERその1その2第一話の続き。


 今より遡ること半年。
 その時、僕はお客さんを見送ったばかりで、受付で施術後の記録を書き留めていた。
 入り口に取り付けられているチャイムは鳴らなかったと思う。カットをお願いできますか、と声を掛けられて初めて僕はそのお客さんに気付き、慌てて顔を上げた。
 初めての来店だな、と直ぐに思ったのは、僕の物覚えが特別良いからでない。黒髪を背中まで伸ばしたそのお客さんが、一目見ていれば忘れないだろう独特の雰囲気を持った美人だったからだ。
 予約のない飛び入り客は、要望がない限り、手の空いている美容師が接客することになっている。つまり、僕が受け持つと言うことだ。
 希望を伺うと、お客さんははっきりと、こう言った。

「綾波にしてください」

 それが、オーナーと僕の出逢いだった。

【第二話 未知との遭遇】

 ――アヤナミ?

 芸能人には疎いんだけど、と女性雑誌に手が伸びたところで、天啓のように閃くものがあった。
 パチンコ店の壁に立ち並んだ、青い髪の少女。
「エヴァンゲリオンの、アヤナミですね?」
 お客さんの頭が軽く頷いた。間違ってはいなかったらしい。
 僕はとりあえず胸をなで下ろし、まずは洗髪のためシャンプールームへ向かう。
 この仕事に就いていると、‘ながら’作業が上達するもので、この時も口ではお湯加減など聞きながら、僕の脳は施術の手順を練り始めた。
 アニメ自体は見たことがないけれど、幸い有名なキャラクターだから、僕でも思い描くことはできる。イメージとしては前髪を下ろしたマシュマロボブ。内巻きにして、仕上がりは少し無造作ヘア風に崩した方が良いだろう。
 洗髪の終了と同時に僕の頭の中のイメージも仕上がる。お客さんをカットルームへ誘導し、早速カットを始めようとはさみを取り出したところで、僕はふと悩んでしまった。
 綾波の髪型にカットして欲しい、ではなく、綾波にして欲しい、と要望したお客さんだ。細かいことを気にしすぎかもしれないけれど、可能性が1パーセントでもある限り、僕はそれを確認するべきだと思った。
「あの、」
 声を掛けて、僕は言葉に詰まった。
 お客さんの顔は先程から真っ直ぐに鏡台に向かっている。けれど、その瞳は鏡の中から僕をじっと見つめていた。
 鏡越しに向かい合った視線の強さにたじろぎ、けれど意を決してもう一度問いかける。
「一緒にカラーはいかがですか? 綺麗な水色の粉があるんですけど」
 鏡の中の瞳が睫毛を一旦伏せ、それからゆっくりと持ち上げ直してもう一度僕を見た。
「合格」
 意味を僕が聞き返すより早く、お客さんは施術を始めるよう促すと、僕のはさみの音に合わせゆっくりと説明を加えてくれた。それは、新しいコンセプトの美容室を開設するので、スタッフになって欲しいと言う話だった。
 これはもしや‘引き抜き’なのだろうか。脳裏にそんな単語が脳裏に浮かんだが、自分の身に起こることと思っていなかったので、現実味が薄い。第一、引き抜き元の美容院の中で、仕事中に話すことがあるだろうか。
 僕は一瞬手を止めて周囲を見渡した。しかしお客さんとの適度なお喋りは業務の内だからか、特別この席での会話に注意している者はない。
「……どうして僕を?」
 強引に話を逸らすことも躊躇われ、結局僕は疑問を返した。
「第一は、アニメキャラの名前を言われて退かなかったこと。決め手は、客の髪だけ見るんじゃなく、どんな自分になりたいかって気持ちを汲み取ろうとしてくれたから」
 僕はなんと返して良いかわからなかった。
 この美容院は、スタイリストが自身の個性を表現することを重視している。デザイン料を取るには、僕のカットは個性が足りないと言われることもあった。
 でも僕は本当は、同じ個性を出すのでもお客さんの希望の方が、僕の主張よりよほど大事だと思っている。
 経営方針の違いと言ってしまえばそれだけだ。この考えを推奨してくれる店もあるのだと分かってはいた。けれど僕のやり方を見抜いた上で、口に出して認めてくれた人は初めてで、その時受けた想いはまるで言葉にならなかった。――たぶん、嬉しくて。
 だが、それと、話を受けることはまた別だ。
「ありがたいお話ですけど、僕、アニメとかよく知らないですし」
 エヴァンゲリオンが分かったのは偶然だ。
 僕より技術力のある美容師は万といる。きっとその中には、アニメに詳しい美容師もいるだろう。
 けれど、返ってきたのはシンプルな回答だった。
「詳しい必要はないよ」
 僕の為に話を合わせているのでなく、本当にそう思っているようだった。
 僕の脳がほかの文句を思い付くよりも、僕の手が施術を終える方が早かった。仕上がりを鏡に映して確認してもらう。お客さんから不満が出ることはなく、それは良いことなのに、僕は困ってしまった。
 結局カラーはしないとのことなので、僕とお客さんの接点もこれで終わってしまう。
 まだ、返事をしていないのに。
「仕事終わるの何時?」
 ふと、お客さんが問うた。それはカットの出来映えについて語るのと同じ調子で、僕も正直に業務時間を答えていた。
 時計が一瞥される。
「駅前のスタバで時間つぶしてるから、気が向いたら来て」
 まるで道端で再会した旧友が飲みに誘っているような気安さに、思わず頷きかけた。だが、お客さんは友達でない。
「気が向いたらって……」
 どう答えれば良いものか分からず、語尾は曖昧に消えた。
「詳しく話をしたいから、待ってる。でも待ってるのはこっちの勝手だから、好きにして」
「好きにって……」
 お客さんの言葉をそのままオウム返しにしていることに気付いて、僕は口を噤む。間の抜けたやりとりを、けれどお客さんは笑うことなく、つまり、と言い換えてくれた。
「身の危険を感じるなら来ないこと」
 大人なんだから、判断できるでしょ。
 そう言い置くとお客さんは会計を済ませ去ってしまった。
 戸惑う内にもやがて日は暮れて、閉店の時刻になる。掃除、ミーティングと目の前のことに没頭しているうちに、お客さんに伝えていた時間は過ぎていた。
 夕飯を食べに行こう、と誰からともなく声がかけられる。常ならば僕に断る理由はないのだけれど――
「約束があるので、今日は失礼します」
 一礼して、僕はジャケットを掴むと駆け出した。
 果たしてこれが大人の判断なのか、自信はない。ただ、後悔のない選択のためならば、僕は子供のままでも良かった。
 足早に辿り着いた駅前のスターバックスの扉を開く。相手を探す必要はなかった。まるでタイミングを知っていたように、僕がカットしたマシュマロボブ――否、綾波カットの頭が振り向いて、口元を綻ばせた。
 その笑みが天使のものだったか悪魔だったかは、今も僕しか知らないことである。


今回のネタは判り易くエヴァンゲリオン。
冒頭のシーンありきで書き出した為、なかなか纏まらず苦戦した跡が残っています。

2008年4月1日エイプリルフール限定公開したBLEACHサイトより、そろそろ時効と言うことで収録。
コミックス20巻ネタバレ+カラブリネタです。


 今年も、柿は生った。

 三番隊隊舎の庭には柿の木がある。吉良が三番隊に配属されて以来数十年間、毎年実を生したこの木は、隊首が手ずから植え育てた渋柿である。
 ――だからこそ。
 吉良は独り、朱色の実を見上げた。
 隊首の如き柿への思い入れはない。それどころか、干した果物に共通する独特の甘みを苦手としていた吉良は、執務室から見える柿の木を気にしながらも、多忙を言い訳に、剪定も摘蕾も行いはしなかった。
 だと言うのに、葉が枯草に変じ始めたのと引き換えに、実は鮮やかな丹へ色付いた。
 ――今年は生らないと思っていた。
 気紛れでひとつところには収まらない隊首であったが、柿の木に関してだけは別で、年中手入れを欠かさなかったから、柿もその愛情に応えるのだと、どこかで信じていた。だと言うのに!
 これは明白な裏切りだ。
 そしてそう感じた自分自身に、吉良は愕然とした。己はまだ彼の隊主に囚われ続けている。裏切ったのは、隊首の方だと言うのに。

 今年も、柿は生った。


「柿が生る あああ今年も 柿が生る」に対する、一つのアンチテーゼのつもりでした。
あと、雰囲気の問題でカタカナを書きたくなかったので名字表記しましたが、吉良と書くと別人みたいだと思いながら書いた記憶があります。

2008年4月1日エイプリルフール限定公開したBLEACHサイトより、そろそろ時効と言うことで収録。
コミックス16巻ネタバレです。


 ――可哀想な子。

 少女は既に斬魄刀を抜いていた。
「俺の知ってる藍染はな――!」
 少年は言葉を尽くして亡き男の人格を訴えるが、少女の耳は既に閉ざされている。
 もっとも、男について少年の知ることなど、なにひとつ真でない。偶像を仰ぎ見ていた者が如何に言葉を重ねようと、真実からは遠離るばかりだ。
 憐憫を禁じ得ず、市丸の口の端に薄い笑いが浮かんだ。
「だって、書いてあったもの!」
 流される涙は血に似ていた。
「藍染隊長がそう言ってるんだもん!」
 互いこそ最大の味方であった筈の二人が刃を間に置き、いま正に喜劇の幕を開けようとしている。紅い月が舞台に照明を与えた。

 一言、言えば良いのに。
 少年は最後のチャンスを口をつぐんで見過ごした。問えなかったのは彼の怖れゆえだ。
 ――俺がそんな奴に見えるか、と。


雛森副隊長は、少しギンを見習って、幼馴染を大事にするべきだと思います。