• タグ 『 日常ミステリ 』 の記事

近藤史恵著「タルト・タタンの夢」

またも、グルメネタ+日常の謎というジャンルから一冊。レストランの客たちが持ち込む小さな謎にまつわる短編7編。
面白かったです。
迷惑だったり独り善がりで好感を抱けない客が多く、個々のお話はそんなに良いとは思わなかったのですが、物語の舞台である小さなフレンチ・レストラン「パ・マル」が、とても素敵なお店――美味しくて、気取らない家庭的な雰囲気――で、行ってみたくなるのでした。
近所にこんな店ないかしら。

上田早夕里著「ショコラティエの勲章」

【あらすじ】
老舗和菓子屋に勤める絢部あかりは、2軒先の人気ショコラトリーで万引き事件に遭遇したことを切っ掛けに、ショコラトリーのシェフ・長峰と知り合う。長峰との交流を経て、あかりは菓子職人の矜持を知っていく。

パティシエの世界を舞台とした“日常の謎”ミステリと聞いていたので、和菓子屋から始まって驚きました。
職場が和菓子屋であることや、御菓子蘊蓄が多いことなどは「和菓子のアン」と似ています。しかし、主人公のタイプは真逆。本作のあかりは、無闇に詮索好き且つ周囲の人々に対して偉そうに見えて、好感を抱けませんでした。超頑固な長峰シェフは、理屈っぽくて面倒くさい人だけれど、一貫していて格好いいです。
あまり後味が良くない情念や苦みのある展開もあるので、リアルではあるけれど、個人的には好みから外れる話もありました。が、最終話の締めが良いので、読了感は清々しかったです。

スイーツの描写は非常に巧みです。味を想像して口の中に甘みが広がり、チョコレートやケーキが食べたくなります。
また、職人の矜持や魂も込められていて、御菓子を食べるにも色々考えさせられる気がしました。

柳広司著「漱石先生の事件簿 猫の巻」

【あらすじ】
ひょんなことから「先生」の書生となった「僕」は、変人揃いの先生と友人たちが過ごす奇天烈な日常という事件を紐解いていく——

本作は夏目漱石の「我が輩は猫である」をミステリーとして読み解くパスティーシュ。
「我が輩は猫である」は既読です。しかし、柳広司自身も後書きで書いている通り、導入と結末以外はまったく覚えていないので、どこまでが原典に沿っていたのかまったく分かりません。
頭も尻もない話や理解できない会話は苦手なのですが、それを生かした4話目「矯風演芸会」はとても面白かったです。無意味な会話と思いきや、「こんにゃく問答」になっていたような、それも確かかどうかか分からないというオチが秀逸でした。

最終話は、猫の死で終わってしまうのかと思いきや、気持ちの良い裏切りがあり、清々しい読了感が残りました。

坂木司著「和菓子のアン」

デパ地下にある菓子店の日常と小さな謎を描いた「日常ミステリ」短編集。
タイトルが秀逸だと思い、読んでみました。“あん”や“餡”だったら当たり前。けれど“アン”だと、「赤毛のアン」を彷彿とさせられて、青春小説の要素もあるのかな?と興味を惹かれます。
肝心の物語自体は、おおよそ想定した通りに淡々と進むのですが、「和菓子が食べたくなる」ということは、お仕事小説として素晴らしい内容ではないでしょうか。また、デパート従業員の仕事という、日常から非常に近いところにある非日常の面白さも良かったです。
タイプとしては、「配達あかずきん」にとても良く似ていますが、「事件」の規模は本作の方が更に小さく、ほっこりした内容です。

主人公の杏子は、甘い物にダラしない性格と外見ではあるものの、向上心とぽっちゃり女子にとって最も重要な“愛嬌”があって、憎めないキャラクター。
その他の登場人物は割と類型的ですが、悪人はいないので読んでいて気持ちが良かったです。

山田真哉著「女子大生会計士の事件簿 DX」
http://www.cam.hi-ho.ne.jp/shinya-yamada/

「配達あかずきん」を読んで以来、ミステリが苦手の麻生でも「日常ミステリ」なら楽しめるとわかったので、本作を選んでみました。
TAC NEWSで連載されていた、会計士のお仕事や、会計についての知識が学べる小説。
元々は実用書として販売していたんですね。この本で学べるのかは疑問ですが、会計入門書としては楽しく会計というものに触れられるので、良く出来ていると思いました。
一方、小説としてみると、ほぼ会話劇で物足りないです。会話劇が悪いとは思わないけれど、肝心の会話に面白みが感じられませんでした。ヒロインである萌実のキャラクターが個人的に苦手という点もあるかも。
というわけで、小説としては正直面白くなかったのですが、他の話ではどんな会計問題をテーマに書いているのかな、という視点で続刊は気になりました。