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野崎まど著「小説家の作り方」

【あらすじ】
若手作家・物実は、ファンレターを送って来た美少女・紫から「『この世で一番面白い小説』のアイデアを閃いたので、小説の書き方を教えて欲しい」と頼まれ、個人教授を始める。

この作品は、ぜひネタバレなしで読んで頂きたいと思いましたので、詳細解説は避けます。

中盤までは長閑で淡々とした展開なのですが、ある時点から「え、そうきたか」と思わず呟きそうになるくらい、急展開になって驚きます。が、同時に納得もするのは、張り巡らされた伏線が巧いからですね。
謎が解き明かされた瞬間、伏せられていたカードが頭の中でバタバタと表に返されていくような面白い感覚がありました。
物語の着地点は予想とまったく違ったけれど、これしかないと思えます。非常に、無駄の少ない作品でした。

結局、このお話の中で皆が目指している「世界一面白い小説」はまだ存在しないのですね。早く読んでみたいなぁ。

須賀しのぶ著「帝冠の恋」

【あらすじ】
オーストリア帝国の大公に嫁いだ王女ゾフィーは、凡庸な夫と帝国の体質に苦しめられ、次第にナポレオンの血を引く義理の甥フランツに惹かれていく。ゾフィーは愛故に恋心を押し殺し、フランツを帝国から解放しようと画策するが――

主人公のバイエルン王女ゾフィーとは、ミュージカル「エリザベート」で鬼姑として描かれるゾフィー皇后のこと。政治的に手腕を持った権力者であり、激しい恋をするけれど身は滅ぼさないクレバーな女性として描かれています。
元々、私は「エリザベート」の登場人物でもゾフィー皇后が好きだという加算点もありますが、お話のテンポは良いし、歴史物に欠かせない背景説明も分かりやすく、どのキャラクターも単純な善悪ではない魅力があり、大変面白かったです。
個人的には、肝であるフランツとの恋愛より、政治話や、愚鈍を自覚している夫カールと歩み寄るシーンや、リヒテンシュタイン=エステルハーツィ伯爵夫人との友情などに魅力を感じました。

エピソーグは、フランツ・ヨーゼフがエリザベートを見初めるエピソード。ゾフィーは若い2人に昔の自分たちを重ね、彼らに帝国の将来を賭けてみようと決意します。
歴史を知らない人が読めば未来へ希望が託されたように見えるし、知っている人であれば皮肉な終わりかたなのですが、メッテルニヒ宰相が時代遅れになって切り捨てられたように、歴史は繰り返していくわけですね。

井上堅二著「バカとテストと召喚獣」

【あらすじ】
文月高校では、学力別にクラスが振り分けられる。上位の学力保持者ながら、体調不良で試験を棄権したため、卓袱台と腐った畳が教室という最下位Fクラスに振り分けられた美少女瑞希のため、学年一バカの明久は、上位クラスから教室設備を奪う「試召戦争」を始める。

久し振りの、いまさら有名ライトノベルを読んでみるシリーズ。
本作は、第8回えんため大賞編集部特別賞受賞作。

お話自体は予定調和で進み、オチも割と視えていましたが、学園物+バトル物という鉄板設定に、戦闘力=テストの点数という分かりやすさと、それをひっくり返す戦術(主に多対一と特定教科での奇襲)が面白いです。
なにより、ライトノベルならではのノリとテンポが楽しめました。

タイトルで「バカ」と言っているだけあって、登場人物は全員バカです。成績上位者も「ある意味バカ」だと思いました。
……「バカ」だと連発していますが、私はバカキャラが好きです。
ただ、主人公・明久が本当にバカであることにビックリしました。普通の主人公にありがちな“バカと言われつつも一芸に秀でている”という要素はありません。悪い奴ではないのですが、バカすぎて、女の子たちにモテるのが不思議でした。
個人的には、ムッツリーニ(土屋康太)のキャラクターが一番気に入りました。章の合間に挿入されている試験と回答で、瑞希の模範解答、明久とムッツリーニの珍回答の3種が並べられているのですが、下記の回答に脱帽したためです。

問 以下の文章の( )に正しい言葉を入れなさい。
『光は波であって、( )である』
土屋康太の答え
『寄せては返すの』

バカ過ぎる(笑)。

また、回答に対する先生方のコメントがノリノリで、こんな学校だったら楽しいんじゃないかな、と思いました。

川原礫著「ソード・アート・オンライン〈1〉アインクラッド」

【あらすじ(最後までのネタバレ有り)】
バーチャルゲーム・VRMMO「ソードアート・オンライン(SAO)」は、サービス初日に、開発者・茅場晶彦の手によってログアウト不能の“デスゲーム”になった。2年後、プレイヤーの1人・キリトは、SAOで知り合った恋人アスナと共にゲーム世界からの脱出=クリアを目指す。協力プレイヤーの中に潜む茅場晶彦に気付いたキリトは、一騎打ちに挑んで勝利し、現実世界へ帰還する。現実に戻ったキリトは、現実のアスナを探し始める。

ここでいう“デスゲーム”とは、下記の状態を指します。

  • ゲーム内の死が現実の死になる。
  • プレイヤーが任意にゲームから脱出できない。

現代版「クリス・クロス 混沌の魔王」ですね。
ただ、「クリス・クロス」の世界ダンジョントライアルからは脱出したかったけれど、SAOの世界アインクラッドは、意外と楽しそうに感じました。
システム面に結婚・持ち家・生産スキルなど今風のオンラインゲーム要素、シナリオに美少女との恋愛という甘さが加わっているため、デスゲームの殺伐・緊張感が緩和されているのです。なんせ、釣りをしているプレイヤーがいるくらいですからね。自分がSAOに閉じ込められたら、誰かがクリアしてくれることを期待しながら、街に籠ってひたすら職人プレイに励みそう。そんな想像ができるくらい、良くも悪くも甘さがあります。
その甘さは物語の結末にも現れていて、相討ちしたキリトや、その直前にゲーム内死亡を迎えたアスナも生き延びる点に、ハッキリ言ってしまえばご都合主義を感じました。
でも、私はこういう甘さは好きです。
人気があることに納得できる面白さでした。ただ、一冊で巧く纏まっているので、続刊には逆に興味が湧かないかな。

ところで、茅場晶彦はずっとアインクラッド内にいたのでしょうか?
クリアまで2年間という長い時間が掛かっている分、茅場晶彦本人の体はどうなっていたのか、外部から助けようとする動きはなかったのかなど、少し気になってしまいますね。

石川博品著「耳刈ネルリ御入学万歳万歳万々歳」

【あらすじ(最後までのネタバレ有り)】
本地民レイチは、親のコネで、連邦に連なる辺境国の王族が通う全寮制学校に入学する。学内では、本地民が運営する委員会と王国民が運営する防衛隊が対立していたが、レイチはクラスメイトである王国民ネルリ等と交流し、両者の仲を一歩改善した……かもしれない。

作者デビュー作にして、第10回エンターブレインえんため大賞小説部門優秀賞受賞作品。
本作を出版しようと考えた編集者は偉大だと思う、人を選ぶライトノベル。

ここまで僕の話、一切なし。
そりゃあ確かに村の児童委員は持ち回りだったから実績としてカウントされなくても仕方がない。でも、他にも訊くべきことはたくさんあるはずだ。たとえば、「あなたは脳内でどんなアルバイトをしていますか?」と問われれば、「はい、僕目当ての女の子で満員のアイスクリームパーラーで給仕をしています」とハキハキ答えてみせる。そんなアルバイトで貯めたお金で天体望遠鏡を買おうかそれとも無線機にしようか思案していると、委員たちは僕らを無視して話し合いを始めた。

万事この調子で、変態主人公レイチによるエッチな妄想と2ch系のオタク用語が入り交じった一人称で綴られます。
最初の内は読み難くて仕方ないのですが、レイチの妄想を適当に斜め読みでやり過ごせるようになると、ごく普通にクラスメイトとの親交や本地民と王国民の対立など、ソヴィエト共産圏風の全体主義下にある学校らしい独特の在り方が分かって来ました。
ただ、私には根本的な面白さがイマイチ良く分かりませんでした。一人称なのに、主人公の考えていることが読者にストレートに開示されない構造が面白いのかなと思ったけれど、短気な私には間怠っこしさの方が上回りました。

ソ連風の全体主義の世界における学園青春劇という、非常に独特な設定と、無二の作風から、合う合わないは別として面白い読書体験ではあります。
ケータイ小説のような内容の文章を「古文」として勉強している下りは凄い笑えました。