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山田真哉著「女子大生会計士の事件簿 DX」
http://www.cam.hi-ho.ne.jp/shinya-yamada/

「配達あかずきん」を読んで以来、ミステリが苦手の麻生でも「日常ミステリ」なら楽しめるとわかったので、本作を選んでみました。
TAC NEWSで連載されていた、会計士のお仕事や、会計についての知識が学べる小説。
元々は実用書として販売していたんですね。この本で学べるのかは疑問ですが、会計入門書としては楽しく会計というものに触れられるので、良く出来ていると思いました。
一方、小説としてみると、ほぼ会話劇で物足りないです。会話劇が悪いとは思わないけれど、肝心の会話に面白みが感じられませんでした。ヒロインである萌実のキャラクターが個人的に苦手という点もあるかも。
というわけで、小説としては正直面白くなかったのですが、他の話ではどんな会計問題をテーマに書いているのかな、という視点で続刊は気になりました。

妹尾ゆふ子著「翼の帰る処」上下巻

【あらすじ(最後までのネタバレ有り)】
過去視の力を持つ尚書官ヤエトは、左遷先の北嶺で念願の隠居生活を夢見るが、太守である皇女の補佐官に任ぜられ、政界の争いに巻き込まれていく。その上、外敵が北嶺へ侵略し危機に陥る。失われた神の契約を過去視で取り戻して敵を退けたヤエトは、皇女に忠誠を誓う。

歴史好きで隠居願望があり、給料分だけ働こうと思っているのに出世してしまう、三十代男性国家公務員――という主人公ヤエトは、正にファンタジー界のヤン・ウェンリー@銀河英雄伝説。
そして、ワガママ娘かと思いきや、ヤエトに上手く首輪を着けた、立派な「王」の風格がある皇女。
この二人のキャラクターの魅力で、最後まで楽しく読まされました。
登場人物はだいぶ絞っていると思うけれど、政治・歴史物である以上、それなりの人数が登場します。それでも、人物を表すエピソードが盛り込まれているので人となりが掴みやすいし、家名が重視されないことと、高貴な方々は名前を秘しているため肩書で事足りる設定も、上手く作用していると思いました。

キャラクター以外でも、奥行きのある世界観や細やかな伏線など、とても上質なライトノベル(※)だと感じます。
「次巻へ続く」と書いてあってもおかしくないラストと、新書サイズしか刊行されていないのが、若干マイナス要素かな。

※単に「ファンタジー小説」と分類して良いと思うのですが、挿し絵もあるし、ライトノベルなのだろうと思います。

山形石雄著「六花の勇者」

【あらすじ】
魔王を封じる6人の勇者「六花の勇者」に選ばれ集まった者は、7人いた。結界に閉じ込められた7人は、紛れ込んだ偽物を探して疑心暗鬼に陥る。結界発動時のアリバイがなく嫌疑をかけられたアドレットは、仲間から追われながら本物の犯人を捜そうとする――

7人いる!
と散々レビューされているんだろうな、と思わされる作品。
もちろん、いい意味合いで使っています。

六花というから雪関係なのかと思いきや、六の花弁の紋のことだった時点で、いきなり推理を外しながら読むことに。
「本格ミステリー」と評されていましたが、ミステリー要素より、駆け引き要素が強いように感じました。魔法が存在するファンタジー世界の時点で、推理は難しいですよね。
でも伏線は丁寧だし、シンプルなお話なので推理も不可能ではない感じでした。

キャラクターはどのキャラも個性が強いし、7人に絞られているので覚え易いです。
その中では、主人公アドレッドと猫語男のハンスが好き。こういう怪しいキャラは、大抵無実だろうと思ったらやはりその通りでした。
最後に巧く「物語が振り出しに戻る」という形で2巻への引きがあって、続きが気になる作りになっているのもお見事。
面白かったです。

鎌池和馬「とある魔術の禁書目録」

【あらすじ(最後までのネタバレ有り)】
全ての「能力」を消す超能力者・上条当麻は、インデックスと名乗る少女に出会う。インデックスは、記憶を1年ごとにリセットしなければ生きられない呪いを受けていた。当麻は彼女を呪いから解き放つため能力を使うが、その際の衝撃で脳細胞が破壊され、彼が記憶を失う。

いまさら有名ライトノベルを読んでみるシリーズ、第4弾。
超科学×オカルトのバトルノベル。既刊29巻で未完と言うかなりの長編シリーズ。色々な意味で「少年ジャンプ」的なライトノベルという印象です。

麻生は「スレイヤーズ」「魔術師オーフェン」を読んで育った世代なので、異能力バトルの面白さはこの2作品が突出していると思っています。
但し、前述の2作品の主人公たちは様々な能力(術)を駆使して戦うのに対し、本作の主人公は、「能力」を無力化する「右手」1つですべて敵と対峙するシンプルさが良いのかなと思います。
舞台が近未来系のため、魔術の発動体がコピー用紙製呪符だったり、水に弱い事が判明したらラミネート加工したとか、思わず笑っちゃう下りもあるのは結構好きでした。
科学だ魔術だと言う割に、主人公の能力はどちらも超越した力なのがズルいですが、そこは主人公特権ですものね。

設定関係や展開はなかなか面白いと思ったのですが、キャラクターの行動原理が不可解でした。
なぜ当麻がインデックスにそこまで肩入れするのか、という最大のポイントが伝わらなかったのです。私としては、「一目惚れしたから」程度の理由でも別に構わないのですが、特別そう言う好意があるわけでもないみたいなんですよね。
結局、当麻がヒーロー気取りの偽善者だから、なのかなぁ。
そう考えると、私としてはラストの記憶があるフリはしない方が良かったです。そうすると、他人の呪いを解く代わりに自分がその呪いを受け、自分は満足して相手を悲しませた当麻の「偽善」が完成するので。元々、記憶を完全に失った人間が、後付けの情報で「その人」らしく振る舞うなんて無理だろうとも思います。
しかし、この1巻のオチからどうやってシリーズを始めていったんでしょうか。

文体に関しては、当て字ルビ振りや、強調したい箇所に「・」付けしているなど、少々読み難いなと思う面もありました。もっとも、スピード感があって勢い良く読めるので、そこまで気にならなかったです。
で、このお話で取り上げている「科学的根拠」は、どこまで信じて宜しいんでしょうか?

田中ロミオ「AURA〜魔竜院光牙最後の戦い〜」

【あらすじ(最後までのネタバレ有り)】
高校に進学した佐藤一郎のクラスには、自分を魔女だと妄想しコスプレで登校する佐藤良子が在籍していた。周囲から虐められた良子は、妄想世界に「帰る」ための投身自殺を図る。かつて己も「中二病」だった一郎は、自分の過去を告白して良子を押し止め、2人は「普通」の人間として日常を過ごす戦いに挑むことを約束する。

日常からファンタジーに片足突っ込む話なのかと思いつつ読んだら、真っ当な現実世界物でした。
所謂「中二病」というものを嫌と言うほど学ばされますね。勿論、現実にこんな痛々しい妄想集団がいるとは思っていません。……いないよね?
「妄想戦士」たちは、他人の話を聞かず否定する癖に、自分を貫き通す勇気もないあたりが不愉快だったので、彼等を軽蔑している一郎には共感しました。
結局、他人より偉い「特別な自分」でありたいという心理なんですよね。彼等は他人の立場を思うとか、共感するとか、そういう人付き合いを円滑に進める為の努力をしておらず、自分本位だと思う。もっとも、一郎ほどオタク性を徹底的に隠さなくても、普通の人付き合いはできると思いますけれどね。
「普通を受け入れよう」というメッセージが良かっただけに、物語のラストは個人的に不満でした。
オチが欲しかったんだとしても、アクセサリー職人の久米さんだけで充分だったと思います。
それにしても、二つ名や美麗な戦闘描写にむず痒くなるプロローグが、あの伏線だったとは!

教室内序列(スクールカースト)という概念は本作で初めて知りました。私の学生時代には、こういう言葉はなかったかな。でも、そういう「グループ」や「○○キャラ」「序列」は存在していました。
イジメシーンもありますが、イジメ側の「女王蜂」大島ユミナの理屈も分かるので、そんなに残酷には感じなかったですね。

なお、本作の出版は小学館ガガガ文庫ですが、電撃文庫(ブギーポップ)や角川文庫(ロードス島戦記)など、他社の作品名が使われているので、ちょっと驚きました。