• 2011年03月03日登録記事

安部龍太郎「風の如く 水の如く」

【あらすじ(最後までのネタバレ有り)】
関ヶ原合戦後、本多正純は家康の命により黒田如水の謀反の疑いを追求する。黒田長政等への訊問から、家康と三成を共倒れさせようとした如水の企てが見えて来るが、その調査結果は公にされない。実は家康は計略を知っていながら、正純に調査させることで如水を牽制していたのだ。如水は潔く負けを認め、隠遁する。

正純による関係大名への訊問と言う形で物語が進んでいく点が、歴史物らしからぬ印象で新鮮でした。証言や回想で時間軸が行ったり来たりするので、慣れるまで少し読み難い気がしましたが、少しずつ壮大な知謀が紐解かれて行くのは面白かったです。
史実はそのままに、その展開や背後にある人々の思惑が変化球と言う仕様で、面白かったです。豊臣恩顧の武将たちが、三成への憎しみゆえに家康へ荷担する従来の関ヶ原論よりも、各人一国の主らしい計算や人間関係が働いていて説得力がありました。
肝心の謎解きは、最後に如水が淡々と説明してしまうので少々拍子抜けしましたが、最終的に家康の勘と言う偶発的な要素が天下を穫ったと言う下りは、事実もそんなものかもと思います。

この小説での黒田長政の人物像は、個人的に気に入りました。
父親を尊敬し認められたい気持ち、同時にコンプレックスゆえの根深い反発に、成程と感じました。また、突撃将軍なだけでなく、一国の大名らしい曲者だったのだなと発見もありました。
黒田如水の方は、家康の人物像が巨大過ぎて、その分スケールが小さく感じる気がします。吉川広家も味方だったなら、もう少し巧く戦局を動かせたような気がしますが、それだけ息子を信頼していたと言う事でしょうか。
あ、長政視点は勿論、正純視点で読んでも、細川忠興にはむかつきました(笑)。