• 2011年03月06日登録記事

宝塚宙組バウ・ポピュリストコメディ「記者と皇帝」(日本青年館)11:00回観劇。

芸達者で知られる北翔海莉が、久し振りにして初の東上作品主演と言う事で、贔屓役者は出演しておりませんが、応援のため観て来ました。
大野拓史先生は、考証を積み重ねるタイプの演出家と評判で、非常に期待していましたが、まずパンフレットを開いた段階で、キャラ設定の細かさと蘊蓄の数々に笑わせて頂きました。こんなに情報が盛り沢山なパンフレット、宝塚では初めて見ました。本人も書いていて楽しいのでは、と感じる雰囲気があります。

お話自体は、とにかく宙組で観るのは久し振りのハッピーエンドコメディで、笑ってほっこりした2時間強でした。
特別公演の宛書きならではと言うべきか、役が非常に多くて、下級生のファンでも大満足ではないでしょうか。かく言う麻生も、今まであまり注目した事がなかったような生徒を知れて良い機会になりました。
フィナーレも豪華に、総踊り+デュエット+男役ダンスと付いていて、順番には戸惑ったけれど、全部素敵でした。

では良作か、と問われると残念ながらそう絶賛論調ではなくて、不満も多々あります。
(以下、ネタバレを含みます)

まず、モールス符号を組み込んだタップダンスで秘密の会話をする、と言うのがこの作品の一番の肝なのですが、これ、何を会話しているのかの説明がないのが問題だと思います。モールス符号を聞き取れない99%の観客にとっては、どういうやり取りをしているのか意味が組めないし、唯のダンスなのか、何かを伝えようとしているダンスなのか、悩みながら観る事になってしまいます。一幕パレスホテルの騒動の後は「有難う」だろうと推察できますが、後は何が何やら、です。字幕を付けると言うわけにはいかないでしょうが、要所はキャラに台詞で補足させて欲しかったと思います。
それから、盛り上げ方が今一だと感じました。結婚式会場に証拠を持ったロッタが乗り込んで来てから、そこで一気に盛り上げないといけないところだと思うのですが、ブライアンは妨害もせず、アーサーとロッタが社長を延々説得するだけ。ヤマがないまま終幕した印象でした。
アーサーとロッタも、一体いつの間にお互いを好きになったのか良く分からず。ダンサー仲間から揶揄されるシーンから想像するに、取材活動の間に仲良くなったのかな。そういうシーンこそ見せて欲しかったです。
それから、これは演出のせいでないけれど、実は幕開き前のBGMの時点でズッコケました。沢山の楽曲が用意されていたけれど、何度も聞きたいような曲がなかったのは、折角歌巧者の主演作なのに残念です。

誰一人として「悪人」が出てこない健全さは、「国民劇」をやりたいと言う演出家の志に沿っているし、金持ちのボンボンが目の前に敷かれたレールを飛び出して夢を掴むと言う大団円ストーリーは嫌いじゃないのですが、上記の点が引っ掛かって、手放しで面白かったと言い切れない部分がありました。

主演アーサー・キング@北翔海莉は、ド金髪に驚愕しましたが、一幕後半以降は衣装とも巧く合って、格好よかったです。特に二幕冒頭の留置場で思考しながらタップするシーンは好みでした。
歌もダンスも抜群の安定度で、完全な独り舞台。
フィナーレで1階客席扉から通路を駆け抜けて登場するシーンがあるのですが、至近距離で一瞬観た身体は非常に引き締まった細身で、舞台だと太めの線に感じる北翔でもこんな絞られているなんて、ジェンヌは皆凄い細いんだな〜と感心しました。
開演前後の挨拶声が非常に柔らかかったのも印象的でした。

ヒロインロッタ@すみれ乃麗は、危惧した通り歌唱に難あり。台詞は問題ないのに、歌になると途端声は出ないしフラフラするし、と手に汗握る心臓に悪い舞台でした。
流石に宛書きされているため、役柄は合っていたと思うのですが、この娘の声は少し苦手かも知れません。

二番手はハッキリしない感じで、凪七、十輝、蓮水が役や立ち位置を分け合っていた印象。
敵役のブライアン@凪七瑠海は、美味しい役なのですが、線の細い凪七には少し荷が重かった印象。アーサーが勝てないと思うような大人の男には見えませんでした。ただ、動きを抑えて優雅な雰囲気を出しているのは良かったです。歌の方は、一曲目が声も音も酷いことになっていたけれど、二曲三曲と歌う内に持ち直したので見直しました。
役としては、多分自分の贔屓役者が演じていたら通い倒すくらい、良くも悪くも自分の信念を貫こうとする格好良い大きな男だと思うので、是非モノにして成長して欲しいですね。
マーク@十輝いりすはとにかく立ち姿が格好良い。あの長身は本当に素晴らしい武器ですね。フィナーレでの踊る姿も生き生きしていて良かったです。
ただ、何歳の役なのか最後に疑問が生じてしまいました。ダグラスの大学時代の先輩なのに、アーサーの子供時代には記者だったんですよね……? あの設定は不要だったように思います。
コメディリリーフ的な使われ方のダグラス@蓮水ゆうやは、間が巧くて達者。この人は分類分けすれば正直悪声の方に入ると思うのですが、実力があるので歌っても喋っても良いよなぁと感じます。

スパイスの効いた演技で魅せてくれたのがチェンバレン@風莉じん。一幕では少し知的障害の傾向を感じたのですが、役作りとしてもそう言うイメージがあったのでしょうか。
「銀ちゃん」に続き当たり役だなと思ったのがクリスティ@愛花ちさき。娘役スターとして別格の方向に進んだことで、彼女は花開いたように思います。
レッドマン@愛月ひかるは、恐らく初めてソロで歌を聞いたのですが、安定していて驚きました。ブライアンの側近にしては兵士斡旋なぞしているのが謎だったり、クリスティに惚れていると言う唐突なご都合展開があったりしましたが、若手スターとして着々と階段を昇っているなぁと思いました。

下級生で大注目したのがマーフィー@桜木みなと。桜木は、貸切公演の抽選担当生徒で何度か遭遇しているのですが、ちゃんとした役がついた姿を観るのは初めてでした。すっきりした姿で、芝居もきちんと出来ていたのでグッと注目株になりました。
もう一人がセーラ@伶美うらら。大抜擢ですが、本当に娘役は出来上がりが早いんですね。正統派ヒロイン演技が出来そうで、今後の扱いに期待しています。

その他、気になった役として……
七瀬りりこは、ピンポイントな歌手起用かと思いきや、微妙に役でも出番があり面白かったです。勿論、歌も圧巻でした。
チェンバレンの妻で数節だけ歌声を聞かせてくれた花音舞が、綺麗なソプラノで感心しました。宙組にはまだまだ歌姫が隠されていますね。
ロッタの同僚ダンサー役の娘役たちが、ベッキー@桜音れい筆頭に可愛いかったです。宙組娘役と言うと、正直不作と言う印象があったのですが、こんな可愛い子達が埋もれていたんですね。もっと使われるようになる事を願います。
それと、芝居では他の敵役面々に埋没してしまいましたが、天玲美音がフィナーレで実にキザなお辞儀をしていて、良い役者だなと思いました。