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アイザック・アシモフ著 小梨直訳「小悪魔アザゼル18の物語」

【あらすじ】
ジョージと悪魔アザゼルは、知人の悩み事を魔法で解決していくが、助けられた知人たちはなぜか必ず悪い結果を迎えてしまうのだった。

初のアイザック・アシモフ作品。
タイトル通り18の短編が収められている本ですが、なんと全短編のプロットは同じです。悩みと解決方法、そして結末という「小さな親切、大きなお世話」のネタだけで勝負しています。
ちなみに、前書きでアシモフが語っている、この作品が一冊にまとまるまでの顛末が面白いです。

アシモフ本人も危惧している通り、語り手のジョージを受け入れられるかどうかが、評価の分かれ目だと思います。個人的には、聴き手を貶めるジョージの性悪さがどうも好かなかったので残念でした。
その一方、ジョージが語る話の中に登場する、体長2cmしかない悪魔のアザゼルは、非常に良い味を出しています。周囲から無視されている知人の話を、自分の身とダブらせて泣いてしまうエピソード(理の当然)など、悪魔なのか天使なのか、本当に可愛い奴です。

ジャック・リッチー著「10ドルだって大金だ」

星新一のショートショートを読んでいるような、エスプリの効いた短編ミステリー14編。
全体的にシンプル且つ軽妙で、ミステリーといっても読者が推理する要素はあまりなく、プロットで読ませる感じです。
犯人はあまり思い悩んだりすることなく、気軽に殺人するので、カラっとした空気感があります。
解説の「読んでいるあいだはひたすら愉しく面白く、読み終えた後には見事に何も残らない」という説明が、まさにその通りでした。

あまり好みでない話もありましたが、短編集なので、幅があるのは当然ですよね。
私が面白いと思ったのは、「誰が貴婦人を手に入れたか」。大掛かりな仕掛けを作っておきながら、名画を盗まず金稼ぎに生かすという現実的な犯人が良かったです。
妻殺しの「とっておきの場所」はアイデアの勝利。
でも、表題作に相応しいのはやはり「10ドルだって大金だ」だと思いました。

エリオット・エンゲル著 藤岡啓介訳「世界でいちばん面白い英米文学講義 巨匠たちの知られざる人生」

英米文学の著名な作家12人について、生い立ちや著作が出来た背景などの裏話を語った本。講義を受けているような印象を抱きながら読んだのですが、訳者あとがきの付記に、講演のテープを起こしたものだと書かれていました。
世界でいちばん面白い!……かどうかは、判定不能ですが、各作家に対して勉強になる内容が幾つかあり、楽しく読めました。
例えば、ディケンズが「同じ本を読者に三回売った」手法は、作家と言うより商売人だな、と膝を打ちました。
過去の作家たちの有様を見て来たかのように話す語り口が軽妙ですが、近代の作家・フィッツジェラルドとヘミングウェイについては、ほとんど生涯を語っているだけで、目新しい情報がなかったのが残念でした。

最後に、少し驚いたことを。
ジェイン・オースティンの章で、彼女は英米文学史における初の大女流作家だと語られています。そもそも作家を表す author は authority(権威者)を語源としていて、つまり男性のことだったと言うのです。
英米における文学テーマは戦争、女性への愛、政治、宗教であって、女性が進出する余地がなかったのですね。
日本では、古代から紫式部や清少納言といった女性作家が活躍していたことと比較すると、面白いものだと思いました。

ジェフリー・アーチャー著・永井淳訳「百万ドルをとり返せ!」

【あらすじ】
石油開発への投資詐欺に騙され破産した数学教授スティーブンは、同じ境遇の男たち3人を集め、首謀者であるアメリカの大富豪ハーヴェイから投資金額を取り戻す計画を立てる。

テンポ良く小粋な作品。
前半は金融的な話やハーヴェイが成り上がる迄の経緯で、本題が見えず少々退屈。騙された4人が集まったところからグングン面白くなりました。計画が巧く決まりすぎる感はありますが、お話として許容できる範囲です。
犯罪小説ではありますが、お互いに騙し合っているという要素と、作中でスティーブンが何度も言う通り「1ペニーも多くなく、1ペニーも少なくなく(Not A Penny More, Not A Penny Less)」取り返そうという趣旨、そして最後に待っている痛快なオチの御陰で、とても爽やかでした。

なお、あらすじを書くとなると、スティーブンの視点で纏めるのが一番簡単だったのですが、物語の流れから考えると、主人公は騙されたメンバーの1人である貴族青年ジェイムズかな、と思います。
最初はバラバラな4人が、計画を通じて段々親密になっていく関係性の変化も良かったです。

トルーマン・カポーティ著、村上春樹訳「ティファニーで朝食を」

村上春樹氏の翻訳は「グレートギャッツビー」の“old sport”が私の翻訳本に対する希望と合っておらず(2009年7月26日記事参照)、期待していませんでした。しかし本作に関しては、氏の淡々とした描写が、名無しの語り手が紡ぐ作品の雰囲気と非常に合致していて読み易かったです。
作品の評価は、ホリー・ゴライトリーの強烈なキャラクターに集約されます。自由奔放で破天荒、エキセントリック。彼女に惹かれるか、嫌うか、は読み手によって異なるでしょう。
同居していた猫との別れの場面が、非常に印象的でした。

表題作の他に短編3編が収録。
「花盛りの家」は予想を裏切る展開が続く不思議な作品。「ダイアモンドのギター」はゾクゾクする物悲しさがありました。一方で、評価の高い「クリスマスの思い出」がピンと来なかったのは、私が親族との繋がりが薄いせいかもしれません。