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五十音順キャラクター・ショートショート【き】
→ルールは2012年12月17日記事参照


 厳しい修行になると、覚悟はしていた。
 幻魔剣は、呪われた武具を使い己の力とする剣王の技である。
 一度は確かに会得したと思っても、平静を欠いた瞬間に武具の呪いが装備者を襲う。幻魔剣を使って戦い続けられる確率は、今のところ五割程度。実戦で使用するには不安が残る。
 現に今も、少年は愛剣の呪いに囚われている。
 彼は天を仰ぎ、魂の叫びをあげた。
「メシ喰いてぇ〜!!」

 E:隼の剣(呪)
 食事ができないステータス異常になる

 強くなろうとする意志よりも、腹を満たす、という原始的な欲求の方が次第に幻魔剣会得の目的になりつつある、剣王の修行だった。

厳しい修行
……キラ(漫画「ドラゴンクエスト列伝 ロトの紋章」)


実際のところ、キラの隼の剣にかけられた呪いってなんなんでしょうね?

五十音キャラSSは、毎日一編ずつ書いていて、ストックはありません。
なるべく毎日何らかの記事が投稿できるように頑張っていますが、「く」はちょっと苦戦しそうです……。

五十音順キャラクター・ショートショート【か】
→ルールは2012年12月17日記事参照


 空の左手を握り締め、景時は密かに息を吸った。
 思えば、頼朝と正面から向かい合うのは久し振りだった。京と鎌倉という距離だけが問題ではない。覇王の冷徹な瞳に映る卑小な自分を見たくなくて、景時はずっと視線を逸らしていたからだ。
 いま、久しぶりに見た頼朝の中の自分は相変わらず小さな存在だけれど、今の景時はその事実に耐えていられる。
 頼朝よりもっと大切な存在、神子が、景時を一番にしてくれたからだ。
 右手には白銀の光を放つ鱗がある。これは彼の神子の最強の切り札、白龍の逆鱗。臆病な自分に預けられた、いささか重過ぎる神子の信頼の証だ。
 ――でも、俺は直ぐ浮き足立っちゃうから、これくらい重いほうが有難い。
 そして、景時は左手に握る自身の『空の切り札』を場に出した。

賭け
……梶原景時(ゲーム「遙かなる時空の中で3」)


景時恋愛エンド。
この時の景時は恐怖を克服していても良いし、実は物凄く内心ビクビクしていても良いよなぁと思います。

「か」から始まるキャラクターは、数人分ネタも含めて浮かんでいたので、またこういう機会があれば書いてみたいです。

五十音順キャラクター・ショートショート【お】
→ルールは2012年12月17日記事参照


 追い詰められた――!
 望みが断たれたことを悟った瞬間、オンベルトの膝が崩れ落ちた。
 仲間と二手に別れて以来、出口を求めて逃げ回っていたが、どうやらこのフロアの出入口は一つしかなかったらしい。
 この先に道はない。そして引き返す道は、彼自身がトラップで塞いでしまった。もっとも、その道はもう間もなく開かれるだろう。邪魔な障害物を壊そうと叩く音が迷宮中に響いている。武器も魔法も通じない、あの恐ろしい魔物が、そこに迫っているのだ。
 傷付いた身体で追いかけ回され、オンベルトはもう限界を超えていた。望みを絶たれ折れた心では、指の一本も動かすことはできない。最早、傷口から流れ出る血もなかった。先程負った火傷で塞がれたのか、或いは流し尽くしてしまったのか……
 このまま渇いて息絶えるか、魔物の爪に引き裂かれるか、どちらにせよ命運は定まった。
 だがその時、轟音を立てて壁の一角が崩れた。
「オンベルトさん!」
 そこに見知った若者たちを認め、オンベルトは震える手を伸ばした。驚いたことに、彼らは何らかの方法で溶岩を越えて来たらしい。余程急いだのか、先頭の若者の服にはまだ火が燃え残っていた。
 力強い手がオンベルトを引き上げる。しかし――
「……あ」
 立ち上がり様、若者の防具の裾と触れ合ったところから火が燃え移る。それが、オンベルトの最期だった。

オンベルトは二度死ぬ
……オンベルト(ゲーム「ベアルファレス」)


ごめんなさい、オチを付けちゃって。
未プレイの方向けに説明させて頂くと、オンベルトは、MISSION「戦士の遺言」の救出対象であるモブキャラです。
普通に攻略するだけでも、救出ルートが分かり難い、倒し方を知らないと絶対に攻撃が通らない魔物2体が迫ってくる、とかなりの難易度ですが、最大のネックはオンベルト自身の脆さ。主人公が引火して焼死、主人公がノックバックで弾いた敵で圧死、等々。2度と言わず10回以上は死を見ることになるオンベルトでした。
ちなみに、オンベルトのいるフロアは何故か岩で塞がれて密室状態になっているので、アーサーと同じ障害物系のトラップを所有していたのでは、と推測しました。

五十音順キャラクター・ショートショート【え】
→ルールは2012年12月17日記事参照


 英国一のセールスマン、王太子デイヴィッド愛用のお墨付きを頂いた商品は、どんな高額商品も引く手あまた。人気の余り、一週間のうちに値が倍につり上がることも少なくない。
「殿下、今度は国産ワインの売上に貢献されましたね」
 マイクスイッチを切ったガイ・バージェスはそう揶揄したが、表情では親しみを込めて笑っていた。
 デイヴィッドはまた、ラジオ番組のやり取りの中で最近お気に入りの品に触れたのだ。明日の朝から、市場は大いに賑わうだろう。この件を依頼していた友人も、十分懐を潤わせて満足するはずだ。
「私はなんでも売るのが仕事だからな」
「なんでも?」
 相槌のような然り気無さで、ガイが念を押してくる。
 デイヴィッドはそれに気付かないふりをしながら、鷹揚に頷いた。
「そう、なんでも」
 ワインでも、スーツでも、自動車でも――祖国でも。
 最後のひとつを口に出して言ったことはない。だがデイヴィッドはいつもこの商品を手の中に隠して、人々が付ける値を確認していた。
 猛禽の眼を隠して笑う目の前の色男も、この国に数多く潜む仲買人の一人である。無論、その事実をお互いに確認したことはなかったが。
 デイヴィッドはなんでも売るが、安売りしたことはない。だから、つり上げてつり上げて、この国を買おうとするすべての者をきりきり舞いさせてやる。そしていつか誰の手も届かない価格になったとき――この男が現すだろう本性を指差して笑ってやるのだ。
 そう、デイヴィッドは英国一偏屈で意地の悪いセールスマンだった。

英国一のセールスマン
……エドワード・アルバート・クリスチャン・ジョージ・ アンドルー・パトリック・デイヴィッド・ウィンザー(舞台「エドワード8世 −王冠を賭けた恋−」)


書き上げた後に、役名としてはエドワードでなくデイヴィッドだったことに気付いて、どうしようかと思いました。ファーストネームはエドワードなので、許容範囲ということでご了承下さい。
あと、あくまで舞台上の設定から膨らませて書いておりますので、史実との整合性は求めないでください。
……ということで、お願いしてばかりの後書きになってしまいました。

五十音順キャラクター・ショートショート【う】
→ルールは2012年12月17日記事参照


 歌を覚えている。
 料理を作りながら、洗濯を干しながら、母アンヌが口ずさんだあの懐かしいメロディ。
 ――けれど、記憶はある箇所で途切れている。頭の中で同じフレーズが繰り返されて、先に進むことができない。

「なんて曲なの?」
 小骨が引っ掛かっているような気持ちの悪さを仲間たちに譲り渡してやろう、と思って挙げた話題に食い付いたのは、弟皇子暗殺の冤罪を着せられて逃亡中、心が苦しくて何もする気力がないと言って見張り役を免除された皇女である。
 ウルは彼女の好奇心溢れる顔を十秒ほど眺めてから、一言答えた。
「知らね」
 正直なところ、あの歌に名があると考えたこともなかった。
 お手上げになるかと思ったが、彼女は一度気になったことは見過ごさない性格だった。
「ロシアの歌なら、あたしが聞いて当ててあげるわよ」
 確かに、母の故国の歌である可能性は高い。
 促されて、ウルは小さく歌を口にした。恥ずかしさと、少しの期待を乗せて。
 だが返されたのは、難しい表情だった。
「あたしが知らない歌なんてあり得ない――てことはもしかして」
「ウルが音痴なんだら?」
 皇女の自信過剰な台詞はウルの突っ込みを待っているかのようだったが、接いだのは、それ以上に捨て置けない発言だった。
「一番歌えなそうな奴に言われたくねーよ!」
 歌えなそうな奴――ヨアヒムは胸を張り、自慢の筋肉を惜しみ無く見せ付けながら笑った。
「なにを言うだら。俺様が子供の頃は、聖歌隊で毎週歌ってただっち」
 それは称賛されるべき行いだろう。ただし。
「吸血鬼が聖歌を歌っていいのか!」
 ただし、吸血鬼でなければ。
「日曜はミサに行くものだっち」
「当然みたいな顔すんなよ! おかしいから!!」
 だが彼の場合、ニンニクは好物で、十字架は大きさによっては武器にしたいと思っていても奇怪しくない。
 そういう知人がいたような気もして、ウルは少し眉間に皺を刻んだ。
「ねぇ、やっぱりヨアヒムって吸血鬼じゃないんじゃない?」
 なんだかバカっぽいし、と、彼が帝都から逃げ出した際の命の恩人であることは忘れたのか、皇女も明け透けなことを言う。
 彼女の疑問はもっともだったが、朝起きたら透明化していたり、蝙蝠になっているヨアヒムの生態は、人のものでない。
「吸血鬼でないなら、なんなんだよ」
 問い返せば、皇女は、年相応の子供っぽい仕草で首を傾げた。
「変態さん?」
 子供の発言は時に残酷である。ウルは無意識のうちに一歩退いた。
「あぁ……うん、それで良いかもしんないね、うん」
 プロレスをこよなく愛する筋肉ダルマな吸血鬼より、ただの変態の方が生き物として真っ当かもしれない。
 そう思いながらウルが退いた一歩を、代わりにヨアヒムが進めた。
「変態ならウルの方がいっぱいしてるだら」
 その一歩は地雷である。
「してねーよ! 俺のは“ひゅーじょん”だから! 『でゅわっ』だから!!」
 由緒正しい変身ポーズを取り、悪魔を呼び出そうとしたその時。
「静かにしなさい!!」
 脳天を貫く勢いで怒声が飛び込んできた。
 否、音だけでなく、それは痛みを伴っていた。
「もう、外まで聞こえてたわよ!」
 パーティの良心を自認するカレンが、部屋の扉を開けるなり叱責を浴びせ、同時にウルの頭を平手打ちしたのだ。その間、実に0.3秒の早業である。
「なんでオレだけ――」
 腑に落ちず皇女たちの方を見やれば、いつの間にか、ポージングするヨアヒムをカメラに収める会が始まっている。
「ウルは見張りの交代よね」
 美人が眼を吊り上げると、妙な迫力があった。がくがくと油の切れたブリキ玩具のように頷き返せば、ようやく見慣れた笑顔のカレンが戻って来たが、それが却って恐ろしい。
 ウルはそそくさと武具を纏めると、これ以上文句を付けられない内に部屋を出た。それから一つ息を落として、歩き出す。やはり最後まで思い出せないあの歌を口ずさみながら。
 だからその時、扉を挟んで同じフレーズが重なったことを知る者は、誰もいなかった。

歌の記憶
……ウルムナフ・ボルテ・ヒュウガ(ゲーム「シャドウハーツ2」)


書き出しが決まるまで長くかかったため、今日は間に合わないかと思いました。
凸凹コンビが登場してからは彼らが勝手に動いてガンガン話が進んで、今度は長くなり過ぎて間に合わないと思いました。

ウルのド忘れが激しいのは、勿論ヤドリギの呪い効果ですよ!