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バーネット著 土屋京子訳「秘密の花園」

【あらすじ(最後までのネタバレ有り)】
両親を失い、英国の叔父に引き取られたメアリは、叔父が10年前に封鎖した「秘密の庭」の入口を発見し、ムーアの自然児ディコンの協力を得て、庭の再生に着手する。やがて病弱で癇癪持ちの従兄弟コリンを庭に連れ出すと、自然に触れたコリンは生きる力を取り戻す。

同じ作者の「小公女」と「小公子」は子供の頃の愛読書。
当然「秘密の花園」も既読……だと思っていたのですが、メアリーのキャラクターに驚いたので、子供向けのダイジェスト版しか読んでいなかったのだと思います。
こんな、可愛げのない女の子だったんですね!
でもメアリーもコリンも根から捻くれているのではなく、単に関わってくれる人がいなかったため自分勝手な子供になっただけで、私達のような大人が子供とどう接するかが重要なのだと改めて諭される気がします。

メアリーは元々自分の問題を抱えていないため、後半はコリンが主人公となっています。メアリーが影も形も出て来ないエピローグは、ちょっと驚きでした。
それ以外の点では、さすがに名作で、単純でまったく捻りのない筋なのに、秘密の庭を探そうとしたり、屋敷の開かずの間を探索したりとするシーンだけでも面白いし、台詞には色々な含蓄を感じました。

なお、過去に英国に行った際、ミュージカル「The Secret Garden」を観ています。
台詞はほとんど理解できなかったので細部は覚えていませんが、メドロック夫人に連れられて電車に乗り、馬車に乗り、という冒頭の旅行シーンがスーツケースで演出されていたことは非常に印象に残っています。

キプリング著 金原瑞人・三辺律子訳「プークが丘の妖精パック」

【あらすじ】
ペベンシーに住む兄妹ダンとユーナは、偶然、英国に残った最後の妖精パックを呼び起こした。パックから〈占有権〉を受け取り、オールド・イングランドの所有者と認められた2人は、魔法によって歴史上の人物と引き合わされ、英国の真の歴史に触れていく。

訳者あとがきにて「なぜこんなにおもしろい作品がいままで訳されなかったのか、首をかしげる人も少なくないと思う。」と記されていますが……
英国史ネタという時点で、本書を読んで100%面白いと思える日本人がどのくらいいるのでしょうか。
というわけで、英国史に通じていないと堪能できない小説だと思います。
1人目のリチャードの冒険潭等は、歴史的背景が関係ない部分なので楽しめたけれど、後半の3編のうちハルとカドミエルの話はチンプンカンプン。各時代のお話が最終的に繋がる構成は素敵でしたが、やはり根本から理解できたとは思えず、消化不良感が残りました。
本書の前に、英国史が分かる小説が必要かもしれません。

ライマン・フランク・ボーム著 柴田元幸訳「オズの魔法使い」

【あらすじ(最後までのネタバレ有り)】
竜巻によって家ごと不思議なオズの国に運ばれてしまった少女ドロシーは、故郷カンザスへ帰るため、魔法使いオズへ会いに行く。しかし、大冒険の末に会ったオズは、魔法使いではなくただの人だった。落胆するドロシーだが、実は彼女がオズの国へ来たときに手に入れた銀の靴は、所有者を望みの場所へ運ぶ魔法の道具だったと分かり、カンザスへ帰還する。

登場人物や、ドロシーがオズに会いに行って、実は……というあらすじは常識のように知っているのに、細部は全然知らなくて、こういうお話だったのか、と驚きながら読みました。
短い寓話なのにテーマを織り込んだらあらすじが常より長くなってしまいましたが、要は、脳みそのないかかし、心がないブリキの木こり、勇気がないライオンはもちろん、銀の靴を手に入れたドロシーも、実は「最初から望むものを持っていた」というお話なんですね。

女の子が不思議の国を巡る冒険潭。とても明るく前向きで気分が良い作風は、アメリカ合衆国生まれのファンタジーだからかな、と思いました。
なにより、仲間がみんな「いい奴」なんですよね。
誰もが少女のドロシーをちゃんと立ててくれるし、お互いを見捨てず、勇気と知恵で乗り越えていって、最終的にはみんながそれぞれ幸せを掴み、周囲からも認められるので、読了感が良かったです。

解説によると、「オズの魔法使い」は人気作になったため、続編が多数作られたそうですが、ドロシーはカンザスに帰っているのに、どうやってオズの国のお話を続けているのか、気になりました。

ペイトン著「バラの構図」

【あらすじ(最後までのネタバレ有り)】
田舎に引っ越した少年ティムは、自分と同じ「T.R.I.」という頭文字が入った絵と墓を見つけてから、その少年トムの幻を見るようになる。幻に導かれ、60年前に亡くなったトム少年の生き方と死の理由を探るうちに、ティムは自分の生きる道を見出だしていく。

ペイトン作品で、初めて読了後にホッとしました。
とても等身大で、現代日本の青少年にも通じるリアルな感覚のお話だと思いました。

絵を描く才能を持っているけれど、金持ちで恵まれているけれど敷かれた道に迷っている少年ティムと、貧乏で暇なしで苦労しているけれど特に生活に疑問を持たない少年トムという2人が交互に描かれ、似ているところ、違うところを様々に感じさせます。
トム側のエピソードは、早世するとわかっているためか、どこか暗い寒さがずっとあり、モノトーンの世界で脳裏に描かれるのが印象的でした。

最終的に、ティムは親に敷かれたエリートコースは拒否するものの、貧しい労働者の生活を良しとして淡々と生きることもない、どちらも求める自分を認めているところが良いと思いました。

ペイトン著「運命の馬ダークリング」

【あらすじ(最後までのネタバレ有り)】
貧しい家庭の末子ジェニーは、トラブルメーカーの祖父が競り落としたサラブレッド・ダークリングのため、厩舎員として働くなるようになる。母との軋轢や彼女以外の人間には懐かない馬に苦労するも、遂にダークリングがレースで優勝し、莫大な賞金を獲得する。だが田舎に一人残された祖父が癌であることを知ったジェニーは、恋人とダークリングの渡米を見送り、一人祖父のもとに残ることを選ぶ。

半生を捧げた競走馬に報われるシンデレラストーリーかと思いきや、最後に寂しさが残ります。
ただ、このお話はあくまでジェニーの人生の一部であって、今後はまた未来が開けるかもしれないんですよね。
確かに、恋人のゴダードとは、離れ離れになったら巧くいかないだろうけれど、その代わりに半分血の繋がっている弟という、絶対に消えない絆を手に入れたわけだし、どちらがいいのか分からないなぁ。

2作目ですが、非常にペイトン作品っぽい感じ、という印象を受けました。
女性たちはエゴが強く、結構スキャンダラスな要素もあり、好き嫌いで言えばあまり受け付けないタイプ。
それでもジェニーは主人公なので心情がしっかり描写されていて、それなりに共感もできるのですが、主人公の母親は最後まで苦手でした。
ちょっと感心したのは、祖父マーフィーの描写です。本当にトラブルメーカーで、身近にいたら勘弁してほしい感じですが、どこか愛嬌もあって本気では憎めませんでした。

そして、単に馬愛好家だった「フランバーズ屋敷の人々」と違い、こちらは馬で生計を立てる話なので、馬の描写に一層力が入っています。
私は競走馬育生を描いた漫画「じゃじゃ馬グルーミンUP!」を読んでいるので、そちらで見た厩舎や競りのイメージと合わせながら、楽しく読めました。