• タグ 『 SS 』 の記事

 ジャネットは心地良い拍手の中にいた。
 上流階級の出でもない自分の成功を、単純に才能の結果だ、とは思わない。弾くことは純粋に楽しかったが、力不足に泣いた覚えは両手に余る。学ぶべき事も未だ多い。
 だが、女神に与えられた機会がこの場に彼女を導いた。
 折しも世界は有り様を根底から揺さ振られ、お伽話でしかなかったもう一つの世界が彼らの目の前に広がっていた。その文化的交流を担う為、演奏家としてジャネットはシルヴァラントへ赴いた。無論彼女の独断ではない。新世界には心の安らぎが必要だと説き、この機会を設けたのはレザレノ・カンパニーだ。
 正直な話、著名な演奏家には断られたのだ、と聞いている。
 それは当然だろう。ジャネット自身も初めは躊躇した。未開の地への恐れは勿論、彼女の元へ現れた担当者がまだ幼い少女であった事もその原因だった。


と言う、サブキャラSSシリーズのネタを書き出してあったのですが、なんせ6年近く放置してるので、どういう展開にするつもりだったのか記憶がありません。
ジャネットのサブイベント自体、1回しか見てないので、どういう話だったか覚えてないなぁ。

ED後のプレセアは、リーガルが身元保証人になって、レザレノカンパニーで働いてると言う想像をしていました。「ラタトスクの騎士」では直接レザレノに就職していなかったけれど、レザレノ傘下の企業に協力していたりしたので、まぁそんなに大外しした予想ではなかったですね。

6/5公演アドリブネタです。


男はもう一度、手にした書状を読み直した。

――なお、本会は黒服以外の装いでご出席ください。

その一文は、プリンス・オブ・ウェールズ主催の仮面舞踏会の招待状の末尾に確かに記されていた。
事実を認めた瞬間、手にした招待状は、革命政府に対する挑戦状に変わった。
彼が負う極秘任務のためにも、祖国を代表する大使としても、この舞踏会を欠席する訳にはいかない。だが、公安委員である彼を招待しておきながらその制服を暗に拒絶する英国の卑劣さに、歯噛みしないでいられようか。
革命により国家としての体力を著しく消耗した祖国を、舞踏会に相応しい衣装も用意できないと嘲笑うつもりに違いない。そう思えば、耳の奥で嗤い声まで聞こえる。その声に眦を裂けば、あの不愉快な英国貴族の顔がはっきりと思い浮かんだ。
激しい怒りが全身を震わせたが、招待状を引き裂く寸前に理性が勝った。
英国と事を構えるのは今ではいけない。
いっそ、英語が理解できなかったふりをすることも考えられたが、それは彼自身の自尊心が頷くことを許さない。
ならば、誇りある制服を脱ぎ、場に相応しく、彼奴らが口出しできない衣装を選ぶことこそ、成すべきことだ。
ついに、彼は決意した。


かくして、総スパンのタキシードに羽根を背負った革命政府全権大使は、「あなた、本当にそんな服持ってたのね」とマルグリットから生暖かい眼差しを受け、パーシーの羽根の方が大きくて豪華なことに一層対抗心を燃やし……と言うもう一つの展開が思い浮かんだ貸切公演アドリブでした。
これに限らず、龍ショーヴランin英国はいじりたくなるキャラですね!
殿下絡みのネタもあるのですが、千秋楽までに書けるかな?

「変な話じゃないか」
 しばらくして興奮の波が通り過ぎると、一人が疑問の声をあげた。
「俺たちの中の、誰がやったんだ?」
 ナチスの将校殺し――そんな大事件を計画し実行した者を誰も知らないとは、奇怪しなことだった。
 レジスタンスも一枚岩ではない。だが、大金星を挙げて沈黙している者がいるだろうか。
 彼等は顔を見合わせた。
「警察連中は、北アフリカ地域の同志を追ってるらしい」
「集会に踏み込まれたお返しか?」
 英雄、ヴィクター・ラズロと面談するためこの街までやって来た彼等が、目的を半ばも果たせず、それどころか不慣れな土地に迷って幾人かの同志を失う羽目になったあの夜の騒動は、確かに火種として十分な出来事だった。
「だったら署長を狙って欲しかったぜ」
 集会に踏み込んだのは警視総監のルノーであるし、あの立派な腹が職権で肥やされていることは衆知だ。
「どうかな」
 応えたのは小さな呟きだった。
 同志たちから問いかけの眼差しを集め、彼は心の内に落としたつもりの言葉が音になっていたことに気付いたらしい。
 軽く肩を竦めると、手にしたコアントローで乾杯して言った。
「署長が死んで、ドイツ野郎が生きていたら、俺たちはここで酒を飲んでられないだろ」


今更な宙組公演「カサブランカ」SS。個人的にはまだまだネタがあるので、今更と言うわけでもないのですが。
映画よりストレートな二人の友情からすると、終幕後の翌日、ルノー大尉がすることはリックの店営業停止命令の撤回だと思います。
もちろん、あの店で飲むのが好き、という個人的な理由も含めて。

6年近く前から温めていたユアンさま過去ネタ。
その間に、ファンダム、ラタトスクが発売され、過去ネタも未来ネタも多いに公式と乖離してしまいました。


【逃亡】
 冷えた土の感触で目が覚めた。
 重い瞼を持ち上げると、闇の中で仄暗い月が揺れていた。
 記憶を取り戻すのに時間は必要なかった。
「……莫迦どもめ」
 嗤った拍子に、頭部が痛み眩暈がして吐き気が込み上げてくる。爽快さとは程遠い。だが、ユアンは衝動に任せ笑い声さえ上げてみせた。それを抑制するものはなにもない。数時間前まで彼を拘束していた魔科学研究所は、今や高い塀のあちら側にある。
 彼は自由だった。
 魔科学研究所と言う名の檻に閉じ込められた彼等、思考する家畜は、マナを人間でも使える兵器に転用する仕事に従事させられる。だが辛い仕事に反し、与えられる食事は一日一回、ほとんど中身のない水粥だけだ。皆、飢えていた。ユアンと共に捕まえられた同族の内、半数が研究への従事を拒否して殺され、残りの半数は栄養失調のため動けなくなり、殺された。
 ユアンが無謀な脱走に乗ったのは、若者らしい短絡さで、どちらにせよ死ぬならば人間共の鼻を明かしてやろうと決意したからだ。成功すると信じていたわけではない。だから塀の頂上で兵士に見付かった時は、これですべてが終わりだと覚悟した──はずだった。
 雷銃に撃たれ、塀から落下した彼を兵士は死んだと勘違いしたのだ。
 なんと言う愚かさ! そしてその愚かさに救われた己の、なんと幸運で惨めなことか。
 水を含んだ土が指先に触れる。天の涙雨か、地に伏した同族の血の池か、定かでない。
 ──宙は遠い。あの彼方に魂の故郷があるのだろうか。最早永久に思考する事がない同族たちの、還るべき星が。
 祈る言葉を持たぬ彼は、ただ口を噤み、その場から立ち去った。


皆さまTOSプレイから数年経ってお忘れかもしれませんが、ユアンさまには雷の耐性がありますよ!(そんなオチ)

 ラズロは目深く被らされた帽子のつばを持ち上げ、一度だけ後ろを振り返った。
 賑やかな明かりはまだ消えない。
 この街で誰かに会いたければ、彼のカフェへ──その言葉通り、あの店の扉を潜ってから数時間で、随分多くの出会いがあった。地下組織の仲間、フランスの警視総監、ナチスの将校、そして。
「あのカフェのオーナーと言うのは、どんな人物だ?」
 問いに、先導の男が振り返った。緊張した面持ちが僅かに解け、若い素顔を覗かせる。
「リックですか?」
 聞き慣れない米国風の呼び名を、バーガーは軽く唇に乗せた。
「1年前からあのカフェを経営して……元はレジスタンスに参加していたようですが」
「同志なのか?」
 迷路のように入り組んだ路を、灯りもなく進んでいく。前を行くバーガーの明るい髪が、ラズロに与えられた僅かな目印だった。
「いいえ。でも、スペイン内戦で一緒だった男がいるんです」
 ふ、と呼吸が揺れ、冷たい夜気が肺に満ちた。
 数えきれないほどの同志が失われた争いの名は、未だにラズロの胸を軋ませる。肉体の傷よりも、遥かに深い痛みだ。
 長く、凄惨な戦いだった。その地に、彼は立っていたのか。
「何故、今は活動に参加していないのか、聞いているか?」
 地下水道に続く扉の一つが開けられ、薄暗い洞の中に、ラズロは躊躇なく踏み込んだ。
「そこまでは、ちょっと」
 応える声に困惑の色が混ざったことに気付いて、ラズロは首を振った。彼の存在は、活動とは関わりのないことだ。少なくとも、今はまだ。
 質問から解放されたバーガーが、ほっとした表情で、今度は強く語り出す。
「それより、みんな貴方の話を聞きたがってますから──」
 頷き返しながら、ラズロは、ただ純粋にリックと言う男の話を聞いてみたいと思った。スペインのこと、活動のこと、パリのこと、イルザのこと……


ラズロはどういう経緯でリックの過去を知ったのか、と考えたところ、バーガーとの会話がササッと湧いただけなので、展開的な面白みはありません。
翌日になってリックが通行証を持っている可能性を知ってからだと、打算的に交渉相手を知ろうとした側面が強くなるので、集会前の方が面白そうかなと思います。
その場合、あまり意味なく、ただイルザと関係があった男がどういう人物なのかが気になったと言うことになるのですが、完全無欠ヒーローのラズロにも、このくらいの本人も説明の出来ない気持ちがあると良いなと、何かが欠けた人物が好きな麻生は思います。

で、1幕でラズロとバーガーが被っていた帽子は、2幕になると影も形もないのですが、何処にいったのでしょうか?