• 2011年02月03日登録記事

井上ひさし「十二人の手紙」

手紙形式で綴られる短編集。

最初から最後まで、紙に書かれた文章と言う形式を崩さなかったのはお見事。最後の謎解きが、聾啞者の夫とその妻の筆談と言う形でされるのはちょっと狡い気もしますが、この夫は自分のエピソード「鍵」でも推理力を発揮していたので、事件に対する鋭い視線は納得でした。
「泥と雪」の船山真佐子(旧姓)と言う名前は、プロローグ「悪魔」で死んでしまった少女、船山正子とどうして同じ読みの名前になってるのかしら。各エピソードが所々で繋がっている作りなだけに、気になりました。

「隣からの声」など、あまり救いがない話が多いので、積極的に面白いとは感じませんでした。まったくオチが読めなかったのは「シンデレラの死」「葬送歌」ですが、真相が分かっても膝を打つような感じでないのですよね。
そんな中、「第三十番善楽寺」は重たいけれど良心的なお話なのでホッとする感じでした。「ペンフレンド」も、前向きな感じで割と好き。

本の紹介に「笑いと哀しみがいっぱいの人生ドラマ」とあったのですが、笑いはなく、人のおかしさと哀しみが溢れていたように思います。