• 2011年02月09日登録記事

風野真知雄「水の城 いまだ落城せず」

【あらすじ(最後までのネタバレ有り)】
時は小田原の役。石田三成は大群を率いて忍城を攻める。しかし水攻めの策を取ったことで忍城に逃げ込んだ百姓が団結し、増援を得ても落とすことができない。やがて小田原城が陥落し、忍城が自ら門を開くまで攻防は続いたのだった。

主人公は忍城の城代・成田長親なのですが、物語を突き詰めていくと、この人物はなにもしてない(笑)。と言う事で、ドラマ性のある三成の視点で粗筋を書かせて頂きました。

忍城側は良い人材が集まったことと、それを巧く配置できた事がすべての勝因でしょうね。長親自身は所謂「ゆるキャラ」なのですが、水攻めの失敗時に「水を弄ぶからだ」と呟く背景に、彼の人生が広がって見えました。
戦をしているのにのんびりした雰囲気があるのも、面白いです。
でも長親は昼行灯と言う評は分かるけれど、決して穏やかな人ではない気がします。武将としては当然なのかも知れないけれど、「我ら、餓死よりも戦死を望む者」と言う台詞はさらっとは言えないと思います。

メインは忍城側ですが、人間性から丁寧に描かれていて、この小説の三成は好感が持てました。
元々、三成の戦下手と言われる根拠を知りたくて読んでみたのですが、このお話では館林城は3日で落としているし、大きな采配ミスをしている訳でもないんですね。
ただ、自分自身は独創性を欠片も持っていないのに、主君に倣うあまり奇策をしたがる辺り、仕方のない人だなぁと、却って好感を抱きました。
豊臣方の武闘派家来に対するコンプレックスで焦っていて、攻手として圧倒的に有利な立場なのに、逆に徐々に追い詰められていく様が面白いです。そのくせ、最終的には負けたことで秀吉の妬心を買わずに済んだと計算するのが、結構姑息ですよね。

長親と三成のまったく価値観が合わない辺りは、銀英伝のヤンとレンネンカンプみたいだと思ったのですが、両者に対する好感度は逆転してます。

甲斐姫はヒロインなのでしょうか? 真田幸村との出会いや片思い設定を入れておきながら、中途半端な扱いで残念でした。
逆に、忍城攻防戦の「黒幕」お菊さまは、やり過ぎな感じ。2度も嘘を真実で押し通したのは、巧く転んだから良いものの、この人はもし失敗したら責任を取るつもりがあったのだろうかと考えてしまいます。
でも物語自体は面白かったです。