• 2008年10月27日登録記事

難産と言うより、余りに一言一言に拘り過ぎて書き上がる目処が立たないリオン本ですが、多分3年後くらいにひっそり仕上げて、10冊くらい製本するんじゃないでしょうか。

以下、まだまだ手入れ部分ですがD2シーンより抜粋。


 白磁の面は、夢に描いた母の微笑を湛えているようにも見えたが、眼差しがそれを裏切った。
「儚く、哀れな魂よ、おまえに機会を与えよう」
 少なくとも、それは対等な人間を見る眼でない。
「今度こそおまえの望む未来を、英雄としての名誉、そして愛する者を掴み取るが良い」
 女の言葉は甘く、蜜を持っていたが、彼が望んだのは別の、もっと単純なことである。
 ゆえに彼にとって、神の眼を巡る戦いの結末はさほど重要でない。野望に憑かれた男は最早この世にない。姉は、彼が決して選べなかった父と戦う道を選び、そして勝利した。ただ、それだけのことである。それもすべては半ば予想していたことだ。
 答えは簡潔だった。
「断る。僕は、もう誰に操られるのもご免だ」
 拒絶に対し返されたのは、緩やかな瞬きである。能面は変わらず微動だにしない。だが、それまで偶然拾い上げた路傍の石を眺めていただけの視線が、初めて彼を見た。瞳は昇る太陽を映した湖面の如き琥珀の光彩を放ったが、心の臓には冷たい手となって触れた。
 女は片腕を挙げ、闇の一点を指差した。すると一隅が四角く切り取られ、そこから光が差し込んだ。眼の奥に痛みを感じるほど目映い陽の光が。
「ならば見て来るが良い。世界を」
 指し示された先の他に、道はない。彼は一瞬躊躇し、しかし決意して闇より世界へ踏み出した。視界が真白く塗りつぶされ、意識もまた白んでいく。
 最後に、確信に満ちた女の声が耳に残響した。
「おまえは必ず、神に救いを求める」


実は私、エルレインが大好きなのではないかと自問するくらい、彼女のセリフはスラスラ書けます。
でもリオン本ではここしか出番がないのですが。