• 2008年10月25日登録記事

宝塚花組東京特別公演「銀ちゃんの恋」15:00回。
映画「蒲田行進曲」を元とした、全編スミレコード警報が鳴っていそうな、およそ宝塚らしからぬ演目。しかし、出演者が体当たりで演じ、それに応える客席の拍手も熱く、やはり観て良かったなぁと思います。
正直、演出が特別良いとは思えないので、原作の威力でしょうか。ただ、ラストのオチはちょっと放り投げられた感がありました。

とにかく「オレが主役だ」の倉岡銀四郎@大空祐飛は、ろくでなし。破天荒とか自己中心とか、でも寂しがりとか、そんな説明で収まる男じゃありません。「ギン」という名前の男は、みんなどこか歪むんでしょうか?
柄々のド派手衣装に身を包みカメラ目線でキメキメ。自虐ネタ中心に笑い所も多く、「顔で踊る」には大いにウケました。あと、倉岡銀四郎としての役作りなのか、本人の素なのか、殺陣の棒立ちっぷりにも苦笑い。月→花組の経歴では、日本物は慣れてないのかな。
土方扮装は、ビジュアルを堪能できて非常に嬉しかったです。どんな奇抜な格好で笑われても格好良いと言わせるのは、これも一つのスターの才能。
知り合うことを全力で遠慮したい男なのですが、「上がってこい! ヤス!」で、犬のように付いて行ってしまうヤスの気持ちが分かりました。

主役と別に、物語の主人公はヤス@華形ひかると言える比重で、半年前「舞姫」にて死に演技に泣かされた華形ひかるに、今回も泣かされました。
十四場、銀ちゃんに真正面から抱き締められた瞬間、オペラグラスで覗き込んだヤスは硬直し、やがて浮いた手をどうしたら良いものか震わせて、やっとの思いで銀ちゃんを押し退けていました。
小夏@野々すみ花は、あいかわらず抜群の演技力でした。今度は本当の妊娠で、出産まであり。こんな若い子がこんな演技できてしまって良いんでしょうか。
個人的には、橘@真野すがたが驚く程ぴったりのキャスティング。竜馬の扮装がとてもよく似合っていて、格好よかったです。ただ、スーツだとちょっと印象が平凡。和物衣装が似合うのが良かったのかな。記念撮影シーンはアドリブですか? 子分達と一斉に背を向けてアホポーズを取るところが面白かったです。橘って、実はアホキャラですよね。
女秘書はなかなか目立つ儲け役。監督はパンフレット写真を見たら、顎割れメイクで気合いが入っていますね。
銀ちゃんの子分役者の一人だった日向燦は、こういう演目なので、もっと中心を喰うくらい弾けた演技をするかと思いましたが、自分の役の大きさをちゃんと保った役作りで、立派でした。
初演と同じヤスの母は、これまたリアルな演技。ところで方言指導って、やはり先生がついているのでしょうけれど、大変そうですよね。

元々ミュージカルではないので、歌はちょっと付け足し感があります。作中にダンスは殆どなし。
でもミュージカルとしては成り立っていなくても、芝居として充分面白いから、これで良いのだ!と思います。
怒鳴る演技が多いためか、声涸れが何人か気になりました。楽まであと少しなので、頑張って!

では、いつも通り最後に苦言です。
セットの移動に音を立て過ぎだと思います。青年館の床の問題などもあるのかも知れませんが、観劇中から気になりました。
あと、暗転も多用し過ぎでは。同じ場面転換方法ばかりなので、回想シーンに入ったとか、時間が過ぎたなどの情報が伝わり難かったように思います。
石田先生、演技指導以外もよろしくお願いします。