• 2012年08月27日登録記事

佐藤亜紀著「モンティニーの狼男爵」

【あらすじ(最後までのネタバレ有り)】
人見知りの男爵は、莫大な年金を持つ娘ドニーズとの見合いの席で彼女に一目惚れした。だが結婚後、ドニーズは伊達男ルナルダンに惹かれ、男爵は嫉妬から狼に変身するようになる。ルナルダンの策略で狼姿の男爵は売り飛ばされてしまうが、策略を知ったドニーズは男爵を迎えに行き、2人は元の鞘に収まる。

実に不思議で滑稽で優雅な小説。
男爵はなぜ狼に変化できるようになったのか、理屈はまったく明かされないし、最後まで読み切っても、これで三方丸く収まったと思えずスッキリしませんでした。
でも、家来や村人が変身した狼を男爵だと疑いもなく認識しているのが、この不思議な世界観にあっていて面白いのです。何度か「狼」を比喩なのかと考えましたが、見世物小屋のシーンもあるし、狼化しているのは間違いないんですよね。
語り手である男爵は、ヘタレだし他人の気持ちが汲める人でもないのだけれど、心情が読み手に赤裸々なので好感の持てる人柄でした。語りが足りないと思う箇所も多かったけれど、ちょっと独り善がりで他人との距離感が巧く取れないこの男爵なら、仕方ないかな、と思ったり。
キャラクターとして魅力的なのは、神父でありながら放蕩者という男爵の叔父と、狼と化した男爵を招き入れるブリザック夫人ですね。肝心のドニーズは、何処が良いのか良く分からなかったけれど、恋とはそういうものと思えば納得です。