月組公演「ルパン」SS。
狩りは英国貴族の嗜みである。
オックスフォード公の私有地にも、広大な狩猟場がある。毎年狩りの季節になると、公爵家の男や招待客が足蹴く通い、哀れなキツネたちを追い立てるのだ。だが、公爵の長子エドモンドが足を踏み入れたのは、これが初めてのことであった。
最後にならなければ良いが――と一瞬心に浮かんだ弱気を、カーペットは直ぐに振り払った。
彼の主人エドモンドは、生まれつき身体が弱く、それ以上に精神が薄弱である。それを恥じた家族から遠ざけられ、ろくな教育も受けずにこの歳まで長じてしまった。
カーペットは愚鈍な主人に幾度も暗然たる思いを抱き、同じだけ感謝の念も抱いた。
爵位を持たぬカーペットでも、エドモンドという青白い人形を操ることで世の中を動かせるかもしれない。野心は人生に彩りを与え、才覚を試す緊張は快感を生んだ。これほど面白いゲームが、他の主人の下で味わえるだろうか。
その主人は、車から降りた位置のまま、オドオドと辺りを見回していた。馬に乗れず、犬を恐れるエドモンドは、狩猟地に来るのにも自動車である。格好が付かないこと甚だしいが、無理をさせて、また喘息を引き起こすよりマシだ。
カーペットが主人を狩猟地へ連れてきたのは、このエドモンドに自信を持たせるためだった。エドモンドが冴えないのは持病のためで、それさえ克服できれば他の兄弟に劣るものでない——と。
そんな幻想は、カーペット自身が信じていなかったけれど、必要なのは事実でない。
……と言う書き出しで、オックスフォード公(爵位継承前)とカーペットのお話を書いています。しかし意外に長くなりそうなので一旦この辺で公開。ちなみに、永遠に後編が出来ない可能性もあります。
自分の婚約披露宴で「カーペットが生きてここに居てくれたら」と嘆き悲しむオックスフォード公があまりに本気で、色々考えさせられました。
カーペットは、打算前提ですが、味噌っかすにされていた主人をよく守り立てていたのだろうと思います。だとすれば、エドモンドにとっては良い部下、親友だったのだと思います。
転じて、「テイルズオブジアビス」のガイが根から腹黒かったら、屋敷時代のルークとガイの人間関係がこうなっていた可能性もあるのか?と妄想させられました。