「変な話じゃないか」
しばらくして興奮の波が通り過ぎると、一人が疑問の声をあげた。
「俺たちの中の、誰がやったんだ?」
ナチスの将校殺し――そんな大事件を計画し実行した者を誰も知らないとは、奇怪しなことだった。
レジスタンスも一枚岩ではない。だが、大金星を挙げて沈黙している者がいるだろうか。
彼等は顔を見合わせた。
「警察連中は、北アフリカ地域の同志を追ってるらしい」
「集会に踏み込まれたお返しか?」
英雄、ヴィクター・ラズロと面談するためこの街までやって来た彼等が、目的を半ばも果たせず、それどころか不慣れな土地に迷って幾人かの同志を失う羽目になったあの夜の騒動は、確かに火種として十分な出来事だった。
「だったら署長を狙って欲しかったぜ」
集会に踏み込んだのは警視総監のルノーであるし、あの立派な腹が職権で肥やされていることは衆知だ。
「どうかな」
応えたのは小さな呟きだった。
同志たちから問いかけの眼差しを集め、彼は心の内に落としたつもりの言葉が音になっていたことに気付いたらしい。
軽く肩を竦めると、手にしたコアントローで乾杯して言った。
「署長が死んで、ドイツ野郎が生きていたら、俺たちはここで酒を飲んでられないだろ」
今更な宙組公演「カサブランカ」SS。個人的にはまだまだネタがあるので、今更と言うわけでもないのですが。
映画よりストレートな二人の友情からすると、終幕後の翌日、ルノー大尉がすることはリックの店営業停止命令の撤回だと思います。
もちろん、あの店で飲むのが好き、という個人的な理由も含めて。