• 2010年06月27日登録記事

月組公演「スカーレットピンパーネル」11:30回観劇(チケットセディナ貸切回)。
ショーヴラン役:明日海りお、アルマン役:龍真咲。
有難い事に、突然ですが観る事が出来ました。前日の公演SSが、実はこの前振りでした。

明日海ショーヴランは、マルグリットへの未練はあまり感じさせず、あくまで道具として彼女を利用する辺り、恋より革命、そして己の野心を見据えているように見えました。冷酷さの方が際立って、滲み出るような情念まではない、体温の低いショーヴラン。
やはり明日海は原作を読んで役作りに影響させているのかな?と勝手な印象を深めさせられます。
革命と恋を混同している龍ショーヴランより大人で、革命も恋も手に入れようとする柚希ショーヴランよりリアリスト、或いは諦めが良い。そんな印象でしょうか。
線は心配していたほど細くなかったですが、小柄なので、背を向けていると民衆に埋没しそうでした。かといって顔が見えると、今度は実年齢の若さが透けて見えて、序盤ロベスピエールと並んでの観劇シーンは、率直に言うと父子に見えました。
本人の実力、容貌に問題がなくても、一人芝居でない以上、カンパニー内の関係性って重要ですね。

Wキャストと言う事でどうしても比較になりますが、歌は全体に明日海の方が安心して聞けました。
歌唱力だけの問題でなく、キーの違いが出た結果かと思いますが、「マダムギロチン」「鷹のように」「栄光の日々」は明日海、「君はどこへ」「ひとかけらの勇気」は龍の得意範囲でしょうか。
逆に言うと、それだけ広い音域が求められる役だったと言うことで、難役だと改めて思います。
一方、台詞の声は不思議と龍の方が好きでした。何より「はっ」と言う低く深い受諾の一言が好みだったので。とは言え明日海も台詞は聞き取り易く、これは完全な好みの世界ですね。
この事で、話す声と歌う音域は必ずしも一致していないのか、と気付かされました。確かに、喋る声は低いのに歌うと高い、またはその逆と言うのはありますものね。勉強になりました。
動作は、明日海が歩く時は腰のサーベルを片手で固定して動かないようにしていましたよね。途中で指導があったのかも知れませんが、龍の時はブラブラさせてしまっていたような記憶があるので、その辺の細やかな気配りは観ていて嬉しいと感じました。全体に抑制が効いていたのは龍の方のようにも思えましたが、不思議ですね。
他の違いとしては、オペラボックスから出てくる時の身のこなしでしょうか。龍は長い足でひょいと一跨ぎした感じでしたが、明日海は登った塀から滑り落りるような印象。最後の蹴りもパーシーに届いていなかったから、この辺は身長差の問題ですね。
持って産まれたハンデは、今後諸先輩方を見習って克服して貰いたいです。

さて、役替わりで比重が大きいのは明らかにショーヴランですが、実は明日海ショーヴランより龍アルマンが面白すぎて、そちらに夢中でした。
全体の印象としては、同行のこたつきさんと「革命の最中に流れ弾で死んでいそう」だと合意。姉マルグリットが、あの馬鹿力でいつも弟を守っていたのかな。ピンパーネル団で唯一の平民なのに、なぜか一番貴族っぽい優雅な雰囲気がまた優男度を上げていました。
最高だったのは、2幕で鞭打たれたシーン。「あっ」と可憐な声を上げて物凄いオーバーアクションで床に倒れ伏したのには参って、思わず吹き出しました。明日海アルマンは、気を失うだけで、倒れはしなかったですよね。苦鳴も男らしかったし。
龍アルマンは台詞声が砂糖菓子のように甘く、弟全開で、ショーヴランを演じていた時のあの低音ボイスはどこへ消えたのか、と驚きました。
女装時はやはり三つ編みでしたが、明日海アルマンとは違うかつらに見えました。極太で男の女装感が強かった明日海に比べると、普通に可愛い娘仕様。
しかし、アルマンの髪型でフィナーレのサーベルは似合ってませんね。
また演技と関係ありませんが、サーベルダンスの途中、上手に待機するシーンで越乃リュウ組長と随分長いこと会話していて、今日の二人――ロベスピエールとアルマンでにこやかに話されると、その内容が気になりました。
それにしてもこのアルマン、気丈で自立したマリーと大変お似合いに見えました。娘役には、相手の男役の男ぶりを上げる娘役スキルなるものが取り沙汰されますが、同時に男役にも、組んだ娘役を可愛く見せるスキルがあるとすれば、正にその技を観た感です。

劇団の思惑に乗せられて、役替わりを思い切り楽しみましたが、やはり気になる事も。
パーシー@霧矢大夢が「ショーヴランを恋敵とは思ってない」という主旨の発言をしているインタビューがありましたが、確かに月組版ショーヴランは、ピンパーネル団の活動上の敵、というスタンスに納まってると思いました。
もっと存在感を出しても良い、出せる役だと思うのですが、パーシーとショーヴラン役者の経験値の差、そして役替わりと言う点からして、そこまで深まらなかったのかなぁと思ってしまいます。
機会を与えると言う意味では、役替わりも意義があると思いますが、ショーヴランはちょっと大役過ぎでは……。
どうせ役替わりするなら、星条海斗ショーヴランを観てみたかった気がします。

その他、役替わり以外で気になった事。
パーシー@霧矢大夢はちょっと声に掠れが。最終週突入ですから、最後まで喉の調子を労り整えつつ頑張って欲しいです。
一方マルグリット@蒼乃ゆきは、高音がもの凄く綺麗になってますね。ただ、一番肝の「貴方を見つめると」「忘れましょう」がまだ手子摺ってるので、もう一息と言う感じ。演技は前回感じたのと同様、キュートで好みです。
シャルル@愛希れいかは歌声の素朴さが味ですね。演技は初演と変わりありませんが、間違いない解釈で良いかと。
靴屋の妻ジャンヌ@美鳳あやが芝居巧者ですね。凄い恐さがありました。
結局個体認識できていませんが、ピンパーネル団の恋人たちがみんな可愛くなっている気がしました。
ラストシーン、グラフの写真等ではパーシーが黒手袋をしたままデイドリーム号に乗っていましたが、東京公演では手袋を取ってますね。二人が素手で握り合う様子は心温まるので、変更されて良かったと思います。