花組東京特別公演「舞姫 -MAIHIME-」11時回。
花組は生徒の顔が見分けられない状態なので、本当に楽しめるだろうかと少し心配もしていました。
結論から申し上げると、面白かったです!
原作のイメージを損ねる事なく、かといって高尚一辺倒でなく軽い笑いを交えつつ、豊太郎という人物に宝塚劇の主役たる説得力を持たせ、美しき悲劇として成立させていました。
その脚本を、愛音羽麗は熱演、野々すみ花は名演で応えており、バウホールで絶賛されたことも納得です。東京で再演されて本当に良かった!
なお、前回花組公演で注目した未涼亜希はと言うと、全役者24人中1人だけ台詞を噛みました。しかも二回。御陰で、未涼亜希の台詞だけ凄い緊張して聞いていました。伴奏が入ると途端に安定し、余裕の歌唱を披露してましたけれど……。また、演技が少し硬く見えました。相沢のキャラには合っていたので、これは役作りでしょうか。
以下、シナリオに沿っての感想です。
第一幕、ドイツ行き。恐らく大劇場とは大幅に異なるのだろうセット予算ですが、稼働仕切りを巧みに使っていました。豊太郎の出立のシーンでは、正に海原が広がるように感じました。ちなみに、座っていた席の後ろに照明光があった都合上、投影されている文字がちょっと読み難かったです。演出ではそこだけ不満でした。
愛音羽麗は序盤から歌いまくり。主役とは言え、ほぼ出ずっ張りで歌い続けるのは大変ですね。
舞踏会は華やかで、ちょっと心が浮き立ちます。岩井、大河内らが途中から下手なダンスを見せてくれるのが面白く、中心を見ずにそちらに視線が行ってました。しかしこの時点では、岩井くんがこの後ずっと絡んで来る、あんな「いいキャラクター」だとは思いもしなかったです。
そして、原芳次郎との出逢い。これは原作にいないキャラクターですよね? 恋人のマリィの方は、パンフで注視した通りのなかなか「いい女」でした。
ここまでで既に4場消化。ヒロイン登場まで、かなりの時間経過があるんだなと吃驚しました。
そんなわけで、待望していたエリスが登場したのですが、その瞬間に脱帽しました。まず、声がとても可愛い。顔は、オペラグラスで覗いてみたところ、正直美人とは思えませんでしたが、その演技で、儚く、いじらしい美少女に化けていました。こんな子なら、助けてあげたい、守ってあげたいと思ってしまうのも頷けます。
一幕ラストは免官処分と母親の自決。座した豊太郎の周囲を、縁ある人々がぐるりと囲む演出は、目新しいものでないですがとても効果的でした。
第二幕、導入は明るくサブキャスト勢揃いでコーラスと思いきや、悲劇の予感をさせる芳次郎の様子に、はやくもドキリとさせられます。
逆に、時計とエリスの伏線は、一幕から入れても良かった気がします。
ロシア行きのシーンは、手紙の演出を大活用。ただひたすら待っていると連呼するエリスが重く、祖国と家族への愛と誇りがまた重く、豊太郎がここで決めかねるのも納得です。
そして、芳次郎の死。朦朧としていてドイツ語が通じない、と泣き崩れるマリィに感情移入しました。その後の豊太郎と芳次郎の会話は日本語でなされたため、マリィには通じていない筈ですが、私は、彼女はなんとなく理解していたと思います。芳次郎の心が日本に帰っていたのを。だから、少し離れた椅子に座って放心したように見えました。
で、正直に白状しますと、芳次郎が「白いおかゆさんが食べたい」と言った瞬間、涙腺が決壊しました。宝塚で初泣きです。日本人だからかしら(ちなみにその後、昼に和食を食べました。いつも以上に美味しく頂きました)。
芳次郎は、明らかに「もう一人の豊太郎」として設定されていますよね。だから、彼の遺言に従い帰国を決意するのは、仕方ないことだと感じられました。
エリスを最初から心を病んでいる少女と設定しているので、後の崩壊は予定調和。正直、相沢は損な役回りですね。ただ、エリスの狂った眼差しがとても透明で、向こう側の世界に行き着いてしまった感がしました。
帰国で終わりかと思いきや、広げた風呂敷「憲法発布」までちゃんと回収。
そして、更に「もう一人の豊太郎」青木英嗣が登場。パンフレットで確認したら、彼は大学自体の豊太郎役(回想)と同じ役者が演じているのですね。少ない人数で回している舞台ならではの、憎い配役だと思います。彼はベルリンに赴いて彼にとってのエリスに巡り会うのか、その場合どう決断するのか、想像が広がって面白いなと思います。
エピローグは、デュエットダンスがあるかと思いきや、あっさり。でも綺麗にまとめていたと思います。
今回は2階B席でしたが、青年館の箱自体が大きくないため、さほど遠過ぎる感はなく、舞台の全景も綺麗に見えて意外に良かったです。オペラグラスの出番も、結果として数回しかありませんでした。
ただ、青年館の椅子は小さくて軋むのと、宝塚を見た!と感じる華やかさに欠けるので、個人的にはやはり東京宝塚劇場の方が好きです。
- 2008年03月15日登録記事