改めて「舞姫」の話。
悲劇ですけれど、すべての事象に一片の救いを与える構成になっているからこそ、美しいのだと思います。
死の床の芳次郎は、日本への郷愁を語りながらも最後にマリィの名前を呼ぶ。
エリスは、見舞いに訪れた豊太郎、但し彼女からすれば見知らぬ男の手に、初めて会った時と同様に頬を寄せる。
そして、芝居の幕が降りてからカーテンコールの段階で、観客へ挨拶するより前に、豊太郎とエリスが抱き合う。心の中か、天国か分からないけれど、二人の愛が偽りでなく今も想っていると言う形で眼に見えたように思います。
この美しさは、読了感が良い小説に似ています。
そして物語自体が、ただの恋愛悲劇でなく、国家と誇りに殉じる男達の生き様による一片の悲劇だから、日本人にウケるんでしょうね。
もう一歩、愛国精神が強い作品であった場合、拒絶反応もあったと思うのですが、この辺の適度なさじ加減は女性脚本家だからこそでしょうか。そう考えると、現在大劇場で上演している「黎明の風」と対称的かも知れません。
- 2008年03月21日登録記事