• 2009年09月16日登録記事

【第1幕5場】
スコットは、長編「華麗なるギャッツビー」を書き上げ、名声を得る。
しかしスコットが執筆に没頭する間、自身を見失ったゼルダは浮気に走った末に自殺ミスを起こし、二人の間に溝が生まれてしまう――

悲劇の始まり。
リビエラは訪問時点から不安を掻き立てるBGMが演奏されており、破局が来る事を予期させます。
ゼルダが叫ぶ「貴方といたいの!」はフラッパーを演じる彼女が初めて言った本音。第三者から見れば満ち足りた生活をしているのに、精神を病んでしまうのは、スコットのような「自分はこれだ」と言える自信を持っていないからだと感じました。そんな彼女の不安に共感出来る気がするのは、俗に言う“現代日本の病”に通じるためでしょうか。
不倫相手の海軍士官エドゥアールは真野すがた。ゼルダの頬に添える手付きが色っぽく、プレイボーイな芸風が既に確立していることが、とても愉快でした。
華麗なるギャッツビー」がこの時執筆されたと言うのは、本当に皮肉なことですね。一心不乱に原稿に向かう間、自分が小説と同じような状況に陥っているなんて。
ところで、スコットはこの当時から睡眠薬を常用していたのですか? 彼の不眠症も、かなり根深い問題のような気がします。

【第1幕6場】
アーネスト・ヘミングウェイと知り合い、“本物の作家”ぶりに惚れ込んだスコットは、マックスに紹介し出版を助ける。
一方、アーネストはゼルダが精神を病んでいることに気付き、スコットに及ぼす危険性を指摘する――

遂に、アーネストの出番です。
4人目の通し役・アーネストを演じる月船さららは、線が太く、自信があって、押し出しが良く、戦闘意欲を感じます。そもそも、大空は月船より学年と番手が上ですが、このスコット役が初バウホール単独主演。一方、月船は代役とは言え前年にバウホール主演経験有り。下剋上OKの月組生と言うこともあり、相手を喰う気が端々から出てるのかも知れません。
そして、それが男臭さを演出していて、アーネストに良く合っている。アーネストがスコットへ向ける喰い付き噛み千切るような眼差しが、怖いくらいだ、と思います。
再演の北翔海莉版アーネストが見たいと常々思っていたため、DVD購入になかなか踏み切らなかったのですが、月船さらら版を見ると、この「攻撃性」が病み付きになりそうです。

ゼルダは、完全に情緒不安定で、どう見ても奇怪しい女になっているのですが、スコットの目にはそう映っていないのでしょうか。
何度か見直しているうちに、ゼルダがアーネストに対して酷く振る舞うのは、スコットの「俺の心を捕らえてる」と言う発言を聞いて、嫉妬しているからだ、と腑に落ちました。男だ女だと言うことでなく、如何なるものであれスコットの賛美が他者に与えられると、それが自分の否定に繋がって感じるのでは。
好き合って結婚し、成功もして、幸せが手に入った筈なのに、お互いに攻撃し合っている状態に陥っている二人は、可哀想だなと思います。