• 2010年05月02日登録記事

宝塚花組「虞美人」11:30回観劇。
東京宝塚劇場の公演開始時間が遅くなってから、初めての観劇。朝はゆっくり出来て良いですが、夕方の回だと終わりが遅くなってしまうのが悩みどころですね。

項羽@真飛聖は、ずっと熱を発する役で大変そうでしたが、さすがの熱演。
個人的に、史実上の項羽と言う人物自体は如何なものか、と思うのですが、トップの役としては一本気の曲がれない男として巧くまとめていたと思います。
虞に惚れ込んでるのが可愛くて、「がおー」のシーンは笑っちゃいました。

虞美人@桜乃彩音は、とにかく夢々しい美しさ。天女のようでした。これが退団オーラと俗に言われている輝き?
声も、いつもよりまろやかに感じました。時々キンと響くのが苦手だったので、これは嬉しい最後の変化でした。

劉邦@壮一帆は、キャラが馬鹿過ぎるのでは……と最初戸惑いましたが、威と出会って以降は苦悩があり良かったです。
威との歌で、最後のフレーズがマイク切れちゃうミスがありましたが、二階でも無事聞き取れました。あの台詞があるとないとでは、印象が違いますよね。

韓信@愛音羽麗は、久し振りに男役を見ましたが、凄く格好よかったです。骨太な役が似合いますね。
私的に、今回のビジュアル大賞です。

軍師は二人とも素晴らしい演技でした。
まず、范増@夏美ようの老軍師っぷり。最期のシーンは、メイクを変えているのでしょうか? どっと老け込んで疲れ果てた様子で、涙を誘いました。
そして、張良@未涼亜紀。軍師らしい醒めた瞳で最高でした。役としても非常に美味しいですね。史記だと、反間の計は陳平が出すようですが、舞台では張良が范増を陥れ、その策に自身も痛みを感じている様子が良かったです。もう少し(脚本が)二人の関係を深く描いてくれたら、ここは名シーンになっていたかも知れません。

呂妃@花野じゅりあは、この手の役は最早お手のものでしょうか。虞を嘲笑いながら、同時に泣いているような芝居に震撼。ただし、太王四神記での役と同じ系統過ぎて、本人的には損してるかも知れませんね。
プロローグの恨み言シーンは、丸々割愛しても良いと思います。

不安だった桃娘@望海風斗は、意外に可愛くて「アリ」だと思いました。声がしっかり娘役声になっている上、男役に合わせて身長を調整する膝折も習得済みで、凄い技術力でした。

と、上げてきましたが、結局良かった所が、これらキャストの熱演しか思い付きません……。
以下、辛口です。

全体にエピソードが継ぎ接ぎ状態だと思います。群像劇にしても散漫。話や人の繋がりが分かれば、もっと面白かったはず。
「項羽と劉邦」は読んでおくべきだったかなと反省。たぶん、予習をもう少ししていれば、脳内補完で楽しめたのでしょう。でもそれって、観客がわざわざ行うことでなく、脚本・演出で明確にすべき点ですよね?
鴻門の会や広武の戦いはちゃんと盛り上がったのですが、それでもどこか物足りないのは、幾度かある戦いのシーンが斥候の報告ばかりで、まともに戦闘描写していないからだと思います。
広武ですら、やっと戦いの踊りだと思ったら、音楽が典雅な曲調に変わってしまって、勇猛さが欠けるように感じました。
全体に深刻さが薄いのかも知れません。
例えば、項梁、懐王の死がどちらも台詞で消化されたこと。そして項羽の最期のシーン、襲いかかろうとして退いてしまう兵たちのやり取り。ここはコメディ?と思うくらい演出が軽くてがっくりしました。
演出の穴を熱演が埋めるのは常とは言え、それなら「シャングリラ」の方がキャラの見せ場はあるし、盛り上がるダンスシーンが複数あって、面白い作品だったと言えます。
役名が付いているだけ、正塚先生作品よりキャラが多いと思いましたが、衛布以下は影が薄く印象に残らないので、結果は同じことでした。
(連れのライトファンは、注目してる中堅生徒の出番の少なさに凹んでました)

あとは細かい事を思い付いただけ。
群衆のシーン、コーラス揃っていて歌としては綺麗でしたが、もっと群衆らしいごちゃごちゃ感があっても良いなぁと、欲張りな事を感じました。
宋義の稚児・紅林と、男児のふりをしている桃娘が同じような格好で、連れは同一人物だと思っていました。私が脚本を書いたら、紅林は存在ごと割愛するかも。張良の童歌の策は、紅林がいなくても示せますよね。
懐王を殺せと言う范増先生の名を騙った策、張良にはめられた事が分かりにくいのですが、そういう解釈で良かったですよね?
短いフィナーレには不足感を感じたのは、本気でショーが好きになった証拠と見て、私も一人前の宝塚ファンを名乗って良いでしょうか。
でも男役による群舞は良かったですね。チケット代分の価値を見出しました。
娘役が一人で踊り出すデュエットは初めて見ました。さよなら仕様? リフトが豪快で、迫力がありました。
パレードの羽は、写真で可笑しいと思っていましたが、実物を見ても微妙でした。雉羽の生え方がアンバランスですよね。

前述の軍師シーンや、四面楚歌で虞美人に嘘を吐く項羽とか、要素では純粋に好きな点もあるのですが。
項羽と劉邦のスペクタクルだと期待していたから、拍子抜け、が正しいかも知れません。どちらかと言うと、たおやかな作品なんですね。
「赤いけしの花」は、単体で聞いた時は良さが分かりませんでしたが、シーンと合わせて聞くと良い曲であることがよく分かりました。