• 2013年01月03日登録記事

五十音順キャラクター・ショートショート【こ】
→ルールは2012年12月17日記事参照

※流血表現があります。苦手な方はご注意ください。


 此処は何処だ?
 吠丸は跳ね起きて辺りを伺った。見覚えのない、岩壁に挟まれた峡谷の底らしい。だが場所でなく何か違和感があった。異様に視線が低い。訝しがりながら足元を見れば、獣のように四つ足で立っているではないか!
 驚きは人の言葉に成らず、唸り声になった。これでは術も唱えられない。
 天から突き落とされ、獣の肉体に意識が取り憑いてしまったに違いない。
 吠丸は、怒りと苛立ちに駆り立てられて有漏有漏とそこらを逍遥した。
 つと、彼の鼻先を奇妙な匂いが掠めた。匂いの元は池だ。但し、水草の一本も見えない、白い煙に覆われた酸の池である。折しも、崩れ落ちた岩が音を立てて溶けていくのが見える。
 だが、これぞ突破口だ。下界で受肉した身が息絶えれば、神は天界で蘇る。
 吠丸は躊躇なく池に飛び込んだ。身体の触れた箇所からものの煮える音がし、皮膚が捲れ肉が焼け骨が露になる。
 肉体の死が目前に見えた瞬間、――首元にこれまでと異なる激痛が走った。
 途端、天界への階を昇ることなく再生が始まる。柔らかな血肉が生じ、神経が蘇り、けれど皮で覆われる前に酸が再びその身を剥いでいく。池に身を浸している限り、この拷問は永遠に続くだろう。吠丸は狂乱して池から這い上がった。爛れた肉が落ち、同時にその傷口が不死の力で塞がれる。
 絶望が彼の背後から忍び寄り、女の腕のように肌に貼り付いて、彼の身を慄わせる。
 吠丸は寒心しながら水面に映る己の姿を見た。
 それは一匹の虎だ。その首に、鮮血のような朱色の輪が嵌められている。神を鬼に封じ下界に閉じ込める呪具、朱の首輪。
 この呪われた輪がある限り、不死の肉体を持ったまま、永遠に下界に囚われ続けなければならぬ。
 吠丸は臥い伏して、咆哮した。

ここは地獄の一丁目
……黄黒天吠丸(ゲーム「俺の屍を越えてゆけ」)


吠丸様に人気がない最大の理由は、小説版での小悪党っぷりだろうと思います。せめて堂々と悪党であれば、モフモフで人気を維持できたのでは。でも、私としては、あの裏表のなさと阿呆のチンピラっぷりにも惹かれるものがある……(笑)。
ゲームから受け取った解釈と小説版では異なる箇所もありますし、どのみち台詞が1つ(リメイクで4つ)しかないサブキャラなんて、自分の妄想で補った部分がすべてなのですが。

俺屍には鳥獣の姿をしている神も多いですが、黄川人の台詞からすると、元は全員人間なんですよね。であれば、鬼の姿は屈辱だろうと思います。