• 2013年01月18日登録記事

五十音順キャラクター・ショートショート【そ】
→ルールは2012年12月17日記事参照


 その子供は、泣きながら後を付いてきた。
 少し進んだところで立ち止まり、子供を待つ。追い付いてきたら、また先に立って歩く。こんなことを何度も繰り返していた。
 まだ道は半ばだというのに、もう日が暮れる。
 だが彼は我慢強く子供を待った。彼の師がそうしたように。
 背負ってやれば良いのだろうが、彼にも荷がある。
 水の城の王は、不測の事態に備え、各地に貯蔵庫を作らせていた。その一つは、彼が棲む村から半日歩いた岩山の中に隠されている。
 水が開放されたといっても、辺境にはまだ行き届いていない。痩せた田畑を蘇らせようにも、日数が足りない。
 故に、彼は月に一度村とそこを往復して、水と食料を運んでいる。
 つと、子供が転んで、吃逆に収まっていた泣き顔をまた涙が濡らした。
「泣くな」
 村への帰り道で拾った、名前も来た場所もわからない子供だ。このご時世、名も付けて貰えないまま親を失う子供は珍しくないが、名を呼べないのは不便である。
「泣くな、美雨」
 ――自分の口から零れた名前に驚かされた。
 彼女が泣いているところなんて見たことがないのに、一度そう呼んでしまうと、他の名前はもう見当たらない。
 気づけば子供も驚いて涙を引っ込め、彼を見上げていた。
「美雨?」
「……ああ。美雨――お前の名前だ」
 その名で呼ぶと、途端に子供を一人で歩かせるのが不憫になった。
 彼女はきっと、両親と手を繋いで歩いた筈だ。
「美雨、おいで」
 衝動のまま、座り込んだ子供に手を伸べる。
 そして空とその泪の名を持つ二人は、並んで歩き始めた。

蒼空から落ちた泪
……空(舞台「シャングリラ ー水之城ー」)


水門の戦い後の空と、少女美雨の出会い。
タイトルやら泪が云々というのは、作中の歌詞から拾って来ていますので、雰囲気で汲み取ってください。
最終シーンで持っている頭陀袋の中身を想像して、色々冒頭に書き込み過ぎました。