• 2013年01月21日登録記事

五十音順キャラクター・ショートショート【た】
→ルールは2012年12月17日記事参照


 滝壺目掛けて、落ちる。
「っニャァアー──!!!!」
 タットは装うことを忘れ、叫び声を上げた。
 宙に浮いていられなかった。体の中に隠したエレメントが、大地に引き寄せられているのだ。だがそれに気が付いても、今さら放り出すわけにいかない。
 きっと水面に近付けば、タットに備わった浮遊能力が働いて溺れずに済むはずだ。そう思おうとしても、ぐんぐん迫る水面はタットの頭の中を恐怖で満たしていく。
 タットは、泳げないのだ。
 バランスを崩した体は頭から水面に激突する──!
「たすけて、レオリナぁっ!」
 思わず祈った瞬間、腹の辺りがぐっと掴まれた。そこを支点にして重力に逆らって浮き上がるような感覚があり、タットはひゃっと声をあげた。
 寸でのところでタットを掴み上げたのは、エレメントを追ってきた夢見る黒き旅人だった。
 小脇に抱えられたまま、水飛沫に濡れた横顔をしばらく見上げる。
 あーあ、捕まっちゃった。
 恐慌から解放された途端、タットは助かったことへの安堵や感謝を捨てて、秘かにそう呟いた。
 エレメントは返すにしても、もう少し引っ掻きまわしてやる予定だったのだ。
 黒き旅人の操るフロートボードは、ジャングルスライダーの終点に向かって水面を進んでいく。状況だけみれば、まるで二人で遊園地の名物アトラクションを楽しんでいるようだ。
 ま、助けた御礼に可愛いタットちゃんとのデート気分くらい味わわせてあげるわ。
 そう決めて、タットは大人しく彼の腕の中に収まってやった。

助けた御礼はデート1回
……タット(ゲーム「風のクロノア2 〜世界が望んだ忘れもの〜」)


タットのようなトリッキーなキャラが巧く動かせると、一端の書き手かなぁと思います。自分はまだまだですね。
今作は掴まった以降の展開が違う2パターンを書いて、意外とドタバタしてない方がタットらしく感じたのでこちらを採用しました。

「風のクロノア」は初代(door to phantomile)の印象が強過ぎるのか、2(世界が望んだ忘れもの)はストーリーの流れを覚えていません。イベントやワールド、パズル性の高まった仕掛けは印象深い物が多いのに、ちょっと残念です。