• 2013年01月24日登録記事

五十音順キャラクター・ショートショート【て】
→ルールは2012年12月17日記事参照


 天の高みを丸い月が飾るこんな夜更けに、何者かが屋敷を訪れた。招かれざる客は案内も請わず踏み込み、静かに眠る屋敷の中をうろついている。耳をすませると、時折金貨同士がぶつかる音がした。
 間違いなく、泥棒だ。
 私は怖れに震える身体を叱咤しながら、音のする方へ秘かに擦り寄った。
 極度の人見知りである私は誰かと顔を会わせるのが苦手だ。体が小さいから喧嘩したって負けるだろう。それに、使う当てのない金貨を持ち出されたって正直構わない。
 だが、我が安息の地であるこの屋敷からは即刻出ていって欲しかった。
 私は泥棒の影が見える位置まで近付いた。当然、正面から向かう気はない。人を前にしてはっきり要求を突き付けるなんて私にはできないし、相手が武器を振り回したりしたらどうしようもない。だから、後ろから近付いて脅すつもりだった。そうすれば、ここが幽霊屋敷と噂されていることを思い出して逃げ帰るに違いない。
 泥棒はまだ私の存在に気付かないらしく、背を向けたまま天井に貼り付いた金貨を採ろうとジャンプしている。だが、あれは丸い月が金貨のように見えるだけだ。随分と間抜けな泥棒だったらしい。私は少し大胆な気持ちになって、泥棒の赤い帽子を小突いてやった。
 ――次の瞬間、私は心底驚いた。
 触れた途端、泥棒の身体が音を立てて小さくなったのだ。たったいま小突いた帽子が、随分と下に見える。
 その時、小さな泥棒が不思議そうに振り向いた。
「わっ!」
 相手は泥棒だと分かっているのに、人と顔を会わせるのが恥ずかしくて、私は思わず目を瞑り両手で顔を隠してしまった。
 だが驚いたのは泥棒も同じだったらしい。小さな身体で一目散に逃げ出した。当初の計画通り、と言いたいところだったが、彼は余程驚いたのか、私の望まない方向、すなわち屋敷の奥に向かって駆け出したのだ。
 こうなったら、屋敷の外に向かうまで追い立てるしかない。
 私は意を決し、泥棒を追って走り出した。

 それが、私とマリオ氏の長い付き合いの始まりだった。

鉄心石腸の内弁慶
……テレサ(ゲーム「スーパーマリオ」シリーズ)


もう少し正体を推理しながら読んで頂けるように書こうと思ったのですが、実際のゲーム面の記憶がなくて断念しました。