• 2014年07月17日登録記事

桂望実著「Run! Run! Run!」

【あらすじ(最後までのネタバレ有り)】
長距離ランナーとして優れた資質を持つ岡崎優は、才能至上主義と協調性のなさから、陸上部で嫌われていた。だが、兄の急死を切っ掛けに、自分の資質が遺伝子操作によるものだと知って走る意味を見失ったとき、馬鹿にしていた陸上部の仲間の姿を見て、努力して普通の人生を生きる決意をする。

スポーツ小説としては、かなり変化球。
私は「人は一人では生きていけない」というお話だと受け取りました。

優は、出場するすべての大会で優勝している優秀なスプリンターですが、その分、傲岸不遜で嫌な青年という、感情移入し難い主人公です。
そして、主人公が走らなくなり、同級生の努力家・岩本のサポートで彼の拙い走りを見ていることで、初めて逆に「走る」ことの良さが見えてくるのが面白かったです。

それにしても、優の両親は酷い親ですね!
母親は顔と頭を弄った長男を溺愛しているし、父親は自分の夢を託しているだけ。
しかも、母親が優が産まれた時のことは覚えていない、まだ欲しくないのにいつの間にか産まれたと言っていたので、2回目は代理母出産だったのではないかと疑っています。
家族は重荷になり、陸上部の仲間の方が今でも親しいという結末は、仲間なんていなかった過去の優と比べたら良かったけれど、哀しみが残りました。

なお、肝心の箱根駅伝の描写は、素人の私からしても、3区以降の襷は繋がらない気がします。そういった設定の甘さも含めて、スポーツ小説ではないと判断しました。