- 分類読書感想
道尾秀介著「月と蟹」
【あらすじ(終盤までのネタバレ有り)】
父を失くした慎一は、かつて祖父が船事故で、同級の人気者の少女・鳴海の母を死なせてしまった事情から、小学校で疎外されている。しかしある日、慎一は母と鳴海の父親の逢瀬を目撃する。友人と創作した願い事を叶える儀式で、慎一は「鳴海の父をこの世から消してください」と願うのだがーー
少年期の甘酸っぱい物語かと思いきや、子供たちの小さな社会の闇を描いた怪作。
ところどころ、ホラー風の不気味なテイストを感じて肝が冷えました。
カエルの肛門にストローを刺して膨らませるだとか、アリの巣を破壊するとか、子供は残酷な行為を容赦なく行うものです。本書では「ヤドカリの貝を炙って追い出した後、焼き殺す」という遊びが行われますので、そのこと自体はサラリと読めたのですが、そこに儀式的な意味が与えられ、次第にドロドロとした情念が込められていくところが恐ろしかったです。
どうにもならない結末は生々しく、考えるほどに腹の底が重たくなる読了感。
作中に吹く風も、山では轟々と吠え、海では湿度が高く、清々しさより息苦しさを感じました。