• 2016年10月27日登録記事

千野隆司著「出世侍」一巻

【あらすじ(最後までのネタバレ有り)】
侍になりたいと夢を抱きながら、上州新田郡で下男奉公をしていた藤吉は、働きを認められ、永穂家の江戸屋敷で働くことを許される。中間、若党と出世し、永穂家が取り潰しの危機に陥った事件を、確執のある用人見習いと共に解決した藤吉は、遂に中小姓として取り立てられることになった。

裏表紙解説で藤吉という名前を見て、「木下藤吉郎秀吉」と勘違いして読み始めたのですが、江戸時代の百姓の立身出世話でした。

藤吉は、知識や所持金等を少しずつ積み上げ、チャンスを逃さない、努力型の出世スタイルで、好感が抱けます。
一気に特進するのではなく、段階を経て登っていく姿に、継続こそ力なりの精神を感じました。

物語のスパイスとして用人見習い・覚助との確執がありますが、これも非常に自然だと感じました。
身分制の時代なので、百姓を馬鹿にする武士がいることは理解できます。むしろ、事件が起きたときに犯人に仕立て上げられるのでないかと思ったのに、最初に疑われたくらいで、後は御家のため一緒に犯人探しに尽力するので、社会人として仕事はしていると思いました。その結果、藤吉しか評価されなかったことで、また確執が深くなるという流れも、至極当然と納得できます。
敵役が、ごく普通の生きた男として見えるのは良いですね。