• 2010年01月20日登録記事

 深夜のカジノで、回転盤にボールを投げ込む音が響いた。
 軽快な音を立てて走ったボールが、やがて勢いを失いポケットへ吸い込まれようとする。エミールは見えざる客にベットの終了を告げ、プレイマットの上を左腕で払った。
 無論、マットの上には一枚のチップも張られていない。だがボールの落ちた数字に赤のチップが置かれているような気がして、エミールは目を閉じた。
 あんな惨めなゲームは初めてだった。
 何度投入しても、あの客が張った数字にばかりボールは落ちていった。まるで負ける為に投げているような恐怖がエミールを襲い、誰でも良いから代わってくれと叫び出すところだった。


……と言う書き出しでエミール話を書いていたのですが、2回目の観劇(1/4)で、ボールを投げる前に賭けを閉め切るやり方であることが判明したので、冒頭から書き直すのが面倒で放置してます。
エミールって、ルーレットを独りで担当してるので大変ですよね。
負け込んで代わって欲しくても、独りで投げ続けるしかない。その孤独は、世界を拒絶しているリックと似ているかも知れないと思いました。
カジノの従業員たちの中で、例えばサッシャは、明るく楽しい男でリックの事も好きだろうけれど、恐らくリックを理解はできない。でもエミールは、サムとは別の視点でリックの理解者になれるかもしれない。
と、まで考えると、さすがに飛躍してるでしょうか。