• 2015年02月08日登録記事

五木寛之著「朱鷺の墓」

【あらすじ(上巻のネタバレ有り)】
芸妓染乃は、日露戦争の捕虜慰安に赴くところを愛国主義者に襲われ、ロシア人イワーノフに助けられる。偏見に耐えつつ愛を育みイワーノフと結婚した染乃だったが、彼が帰国した隙に拐かされ、娼婦にさせられる。大陸に渡った染乃は、夫がロシアで政治犯としてシベリアに送られていたことを知り、彼を捜して再会する。釈放されたイワーノフと染乃は、ナホトカで料理店を始め幸せな生活を送るが、第一次世界大戦が始まり日本軍が進駐。日本軍少佐から脅迫された染乃は相手を殺してしまい、革命のロシアへ脱出する――

あらすじが過去最長レベルですが、これでも上巻部分までしかフォローできていません。下巻も波瀾万丈の大長編です。
すさまじい作品でした。
主人公の半生がすさまじいというだけでなく、作品自体に恐ろしいものを感じました。
それと同時に、今現在の五木氏と出版社に、この小説を書き、発表するだけの気概があるだろうか、と少し意地の悪いことも思いました。
作者の考えはいささか左寄りだと思います。ただ、国外でしばらく生活すると、確かに日本人は島国根性の持ち主で排他的だと実感するのも事実です。

ウラジオストクでの生活は「芙蓉千里」、シベリアで囚人の解放を待つのは「復活」、ロシア(ソ連)の社会主義生活は「ドクトル・ジバゴ」等、色々な作品を思い出しました。そういう意味でも、非常に読み応えがあり贅沢な作品です。

朱鷺の墓、というタイトルにはかなり苦いものを感じました。
染乃は望郷の念で日本に帰るけれど、結局、日本を捨てます。
ラストで、船から日本列島を見る彼女の目には、列島が日本そのものの墓に見えたということなのかな、と思いました。