• 2015年06月02日登録記事

有吉佐和子著「新装版 和宮様御留」

【あらすじ(最後までのネタバレ有り)】
少女フキは、降嫁を命じられた皇妹和宮の身代わりに仕立て上げられ、なにも知らぬまま輿に載って江戸へ向かう。しかし偽物と疑う命婦等と接する緊張から心身を壊し、遂に発狂してしまう。公武合体を推進する岩倉具視は、新しい身代わりとフキを入れ替え、気の狂った和宮としてフキは翌日横死する。

和宮親子内親王が家茂に降嫁したことは、史実としてもちろん知っていましたが、和宮が有栖川宮との婚儀前だったとか、東下を拒否していたといった詳細は知らなかったので「こんなことがあったのか」と新鮮に、興味深く読みました。
もちろん、小説を史実と混同してはいけないし、実際、幕末の和宮は直筆の手紙を御所に送った筈だから替え玉なわけないと思うけれど、もしかしたら「和宮様」は1人じゃなかったのかも、という気になってきます。

フキが和宮と入れ替わるとことは、裏表紙の説明で解説されてしまっているのですが、実際に入れ替わるのは全体のページが4割くらい消化されてから。そこから実際に江戸へ出立するまでに更に3割使い、こんなにも知恵のないままフキが和宮として大奥に行ってどうなるのかと思いきや、なんと最後に大どんでん返しで、もう一度入れ替わるという下りには驚愕しました。
前半が非常に濃密な分、後半は少し呆気ないけれど、その呆気なさが、御国の大事にあっては一個人など埃のように軽くなることを示しているのかも知れません。
そもそも驚くべきことに、誰もフキに対して、身代わりをさせることを説明しないのですよね。観行院以下誰もが、婢なんて言われた通り、或いは言わなくても自分たちが思った通り働くべき存在だと認識していたんでしょうね。

読み終わって冷静になってみると、連載歴史小説らしい悪い点もあります。
登場人物がいきなり増えて、出番が終わると以後一切語られなかったり、視点を変えて色々語る割に、気になる背景が語られないまま終わっています。特に、宇多絵がなにをどう言い含められてここに来たのかと、土井重五郎と岩倉具視の繋がりを語らないのは、物足りないです。
しかし、圧倒の筆力で描かれる、ミステリ調に謎めいた雰囲気、御所言葉で会話する独特の雰囲気、公家の生活という、現代人からすると異次元の暮らしといったものは、歴史小説好きなら一読の価値ありと思います。