• 2016年09月20日登録記事

角田光代著「三月の招待状」

【あらすじ(最後までのネタバレ有り)】
コラムニストの充留は、大学時代の友人夫婦の離婚パーティで、大学時代の憧れの男と再会する。しかし彼は共通の友人である、退屈な人妻の麻美と付き合い始める。いつまでも過去の人間関係に心を残し、叶わなかった恋に執着する自分を振り切るため、同棲相手との結婚に踏み切る。

本の感想と直接関係ありませんが、冒頭、蒲生充留(がもうみつる)という名前で引っ掛かりました。
充留は男名だと感じたのです。美鶴という字面なら、女性だなと思うけれど、あえて充留と書いている辺りは、誤解を招こうとしているように感じます。
でも同棲しているらしい相手が「重春」だから、たぶん女性なのだろうと推測しつつ読み始めて、離婚式に来ていく洋服案に「ドレス」という単語が出てきたところで、ようやく女性だと納得して安心したのでした。
私は、文学作品やミスリード目的の場合を覗けば、小説には一定の「わかりやすさ」が重要だと考えているので、ここで少し取っ付き難さは感じました。

同級生5人のうち、4人のキャラクターの視点に交代しつつ時間軸が進んでいく構成。
心理描写が繊細で、一々納得させられます。構築済みの人間関係に関しては理解できない部分もあったけれど、それもまた現実には良くあることです。非常にリアリティがあって、でも、そうであるがゆえに5人の誰にも魅力は感じませんでした。
宇多男の視点がないのは、良かったと思います。

個人的には、麻美が終盤に掴む「私たちって本来、圧倒的に暇なの」だという解釈が面白かったです。