パット・マガー著 中野圭ニ訳「被害者を捜せ!」
【あらすじ(最後までのネタバレ有り)】
海兵隊員のピートは、僚友が受け取った荷物の詰め物になっていた新聞で、入隊前に働いていた「家事改善協会」の代表が、役員を殺害して捕まったことを知る。しかし肝心の被害者名は記事が千切れてわからない。隊員たちはピートから家善協の十人の役員の人となりや仕事内容、出来事を聞き、誰が殺されたのかを当てる賭けを始める。
犯人と殺害方法は分かっているのに、殺害された相手がわからない、被害者を探すミステリー。
……と聞いた時点で「え!?」と惹き付けられました。正直、発想の勝利としか言いようがない作品です。
ピートの話は、家事改善協会立ち上げから四年間の間、役員たちの間でどんな揉め事があったか、時系列で事細かに語られ、隊員たちの賭けと推理は最後にまとまっています。
物語として読みつつも、この中の誰かが殺されたはず、と想像させられて、家善協のゴタゴタがより面白く迫ってくる気がしました。
結末自体は少し拍子抜けというか、結局普通の推理もので終わった気がします。でも、「犯人以外のものを推理するミステリー」の先駆者として、特筆すべき作品なのは間違いないでしょう。
(本作のオリジナル版発行は1946年)
役員たちは、ピートがいう通り“誰が犠牲者だとしてもたいして驚”くに値しない曲者揃い。でも非常に「こういう人、いるな!」と思わせる人物造形です。いや、自分自身の中に似た要素を見出だすところもあり、「こういう振る舞いは相手に不快感を抱かせるから気を付けよう」と我が身を正す気持ちにもさせられました。