• 2017年11月16日登録記事

蒼月海里著「幻想古書店で珈琲を」

【あらすじ(最後までのネタバレ有り)】
名取司は魔法使いを自称する古書店主・亜門によって「人生」を本にされたが、出来上がったのは白紙で中身がない本だった。古書店で働くことになった司は、本に関わる「不思議」に巻き込まれ、次第に本や亜門に惹かれていく。亜門と打ち解け彼の悔恨を解いた司が自分の本を紐解くと、「亜門と親友になる」と一行目が浮かび上がっていた。

短編3編構成。
近年多い、一般レーベルで出されたライトノベルです。

続刊が出てシリーズ化していることからわかる通り、受ける要素は一通り揃っています。ファンタジー設定だから現実味が薄いお話でもさほど問題ないし、本は今後も増えるからネタにも困らないでしょう。その雰囲気と発想には感心しました。
しかし、私の好みとは合いませんでした。
最大の原因は、キャラクターです。
まず話が進むごとに、主人公の司が鼻につきました。私には「社会人男性」とは思えない言動と思考で、彼の視点で読み進めるのが苦痛でした。ただ、もし彼が高校生アルバイトという設定なら、思慮の浅さや友人の言に影響されるところも許容できたと思います。
司と亜門以外の登場人物は極少ないのですが、終盤に大きな役割を果たす主人公の友人・三谷も、人物像が見えなくて落ち着きませんでした。一話で、彼とは友人だけれど親しい仲でないと設定されていたのに、会話自体はやけに親しげで胸を開いた内容です。そして、3話での彼は都合よく悪魔学に興味を持ち、魔導書を持ち歩いていたことから、主人公と亜門の関係に大きく影響を与えます。
……私には、彼が話の都合だけで動いているように見え、気持ちが冷めてしまいました。

また、「人生が本になる」という魅惑的な設定なのだから、司の本に生まれた一文も、続きが読みたくなるような小説らしい書き出しにして欲しかったです。そうしたら、いずれ「司の本」という書き下ろしに出来て、面白かったかもしれません。

そんな訳で、私には合いませんでしたが、普段あまり本を読まない人が本書に触れて、まず作中に登場する本から興味を持って読書家に育っていくーーという一冊目としては、程よい軽さで良さそうです。
主人公が本に興味のない設定も、それを狙っているのかなと思いました。