• 2013年01月登録記事

五十音順キャラクター・ショートショート【そ】
→ルールは2012年12月17日記事参照


 その子供は、泣きながら後を付いてきた。
 少し進んだところで立ち止まり、子供を待つ。追い付いてきたら、また先に立って歩く。こんなことを何度も繰り返していた。
 まだ道は半ばだというのに、もう日が暮れる。
 だが彼は我慢強く子供を待った。彼の師がそうしたように。
 背負ってやれば良いのだろうが、彼にも荷がある。
 水の城の王は、不測の事態に備え、各地に貯蔵庫を作らせていた。その一つは、彼が棲む村から半日歩いた岩山の中に隠されている。
 水が開放されたといっても、辺境にはまだ行き届いていない。痩せた田畑を蘇らせようにも、日数が足りない。
 故に、彼は月に一度村とそこを往復して、水と食料を運んでいる。
 つと、子供が転んで、吃逆に収まっていた泣き顔をまた涙が濡らした。
「泣くな」
 村への帰り道で拾った、名前も来た場所もわからない子供だ。このご時世、名も付けて貰えないまま親を失う子供は珍しくないが、名を呼べないのは不便である。
「泣くな、美雨」
 ――自分の口から零れた名前に驚かされた。
 彼女が泣いているところなんて見たことがないのに、一度そう呼んでしまうと、他の名前はもう見当たらない。
 気づけば子供も驚いて涙を引っ込め、彼を見上げていた。
「美雨?」
「……ああ。美雨――お前の名前だ」
 その名で呼ぶと、途端に子供を一人で歩かせるのが不憫になった。
 彼女はきっと、両親と手を繋いで歩いた筈だ。
「美雨、おいで」
 衝動のまま、座り込んだ子供に手を伸べる。
 そして空とその泪の名を持つ二人は、並んで歩き始めた。

蒼空から落ちた泪
……空(舞台「シャングリラ ー水之城ー」)


水門の戦い後の空と、少女美雨の出会い。
タイトルやら泪が云々というのは、作中の歌詞から拾って来ていますので、雰囲気で汲み取ってください。
最終シーンで持っている頭陀袋の中身を想像して、色々冒頭に書き込み過ぎました。

三島由紀夫著「豊饒の海 第一巻・春の雪」

【あらすじ(最後までのネタバレあり)】
新華族松枝家の令息・清顕は、筒井筒の仲である綾倉聡子が皇族と婚約したことで「禁断の恋」に美しさを感じ、彼女と関係を持ったうえ妊娠させてしまう。両家は聡子を堕胎させ素知らぬ顔で皇室に嫁がせようとするも、聡子は剃髪して世俗との関係を絶つ。清顕は聡子と追って寺を訪れるが、面会を許されぬまま肺炎で死ぬ。

麻生家の本棚には三島作品がなかったので、本作が三島ワールド初体験です。
三島作品の主人公は「屈折している」と表現されていますが、清顕は有体に言えば面倒くさい究極の自己中男だと思いました。
一方の本多は、結構分かるなぁと思う青い人物像で、読んでいて面映ゆかったです。

文章は、巧みな表現と美しい日本語に戦慄しました。装飾は過剰だけれど、本質が伝わらず読み難いということはないのが意外。
凄い描写力によって作り出される耽美の世界ですね。
物語の筋だとかテーマだとかは関係なく、ひたすら美しさを求めているようにも感じました。
面白かったか、なにか感じるモノがあったか、と問われると悩ましいところ。

ちなみに、この「春の雪」を原作とした舞台が、昨年秋に宝塚月組の若手で上演されています。私は観劇しなかったけれど、ポスターは何度か見掛けたので、読書中の清顕は明日海りおの顔で再現されました(公式サイト参考)。
この舞台写真は雰囲気があって凄く良いですよね。雪が紙吹雪ではないようで、どういう技術を使ったのかも気になります。

五十音順キャラクター・ショートショート【せ】
→ルールは2012年12月17日記事参照


 世界を壊すことは叶わなかった。
 今日までの活動が水泡に帰したその事実は、けれど彼女を安堵させた。
 もともと、彼女自身の望みは彼の平穏だった。それを手に入れるためなら、世界を壊すことも厭わなかっただけだ。
 いま、求めていた平穏は此処にある。魂は永遠の安らぎを得て、もう灰色の未来を見ない。
 少女は少年の手を取り、最後の時を待った。

 そして、彼と彼女の小さな世界は壊された。

世界は壊された
……セラ(ゲーム「幻想水滸伝3」)


キャラクターが決まるまで、一番苦戦しました。
いつか書きたいと以前から願っている赤毛軍師兄より前に、セラを書くことになるとは思っていませんでした。
結局、幻水3はルックの壮大な自殺志願だったんですよね……?

バッケンモーツアルトのブランド・牧場スイーツFARMのバターケーキ「ケーク・オ・ブール」
http://www.b-mozart.co.jp/cake_o_beurre.html

箱を開けると、バターの包装をイメージした銀紙に包まれたケーキが登場。

スイーツファーム
(画面注釈)うっかり、ロゴを逆向きで撮ってしまいました……。

中身を取り出して、1/4に切った状態がこちらです。

ケークオブール

割と小さめ。

バタークリームたっぷりですが、濃厚なミルク感の割に意外とクドくないです。奇を衒わない、素直な美味しさ。
スポンジの間にはジャムかクリームらしきものが挟まれていて、これが甘い濃い味を演出している模様。
スポンジには主張がなく、しっとり感の割に生地自体はポロポロ零れました。

箱の側面に、半冷凍状態がオススメと書かれていました。私は冷蔵庫に入れたのですが、少しクリームが緩かったかもしれません。

五十音順キャラクター・ショートショート【す】
→ルールは2012年12月17日記事参照


「素晴らしい計画が浮かんだぞ!!」
 扉が壊れそうな勢いで開かれたと思うと、まずそんな言葉が飛び込んできた。
「これぞ美しき完全犯罪。ホームズのヤツが地団駄を踏む様が目に浮かぶようだ。わは、わはははは」
 興奮して口から唾を飛ばす教授の様子に、彼はわっと声に出しながら急いで立ち上がった。ほとんど同時に台所から兄貴も駆け寄ってきて、二人はテーブルクロスごと食事の用意を退避させる。
「さぁ、お前たち見ろ!」
 間一髪、物のなくなったテーブルの上に、設計図と地図が叩き付けられた。
「このプテラノドン三号は深海一万マイルの水圧に耐える装甲と――」
 新しい計画だ!
 彼は思わず身を乗り出した。狭いテーブルの上に、三つの頭が寄り集まる。
 部下たちが興味を示すのに満足して、教授は新しい発明品の機能と、それを使って水路から銀行の金庫に侵入する大胆不敵の犯罪計画を説明した。
 その言葉の響きに、彼は思わず頬を綻ばせた。教授が灰色の脳細胞から生み出すオモチャや計画はいつでも彼をワクワクさせる。
「――というわけで、早速準備に取り掛かれ!」
 けれど彼が惹かれているのは、計画の果てにある財宝でなく、こうして教授や兄貴と一緒に何かをすること自体かもしれなかった。

ステキな仲間たち
……スマイリー(アニメ「名探偵ホームズ」)


通称「犬のホームズ」。子供時代の聖典です。
モリアーティ教授の一味は、天才と阿呆の合いの子という感じで、大好きでした。
ちなみに、テーブルからどけた料理は勿論、裏の川で獲ったダボハゼです。