• 2010年09月08日登録記事

宝塚宙組全国ツアー公演「銀ちゃんの恋」@川口の14:00回を観劇。

ちなみに、2年前の花組公演「銀ちゃんの恋」の感想およびDVD感想はタグをご利用ください。
前回の公演時の印象が強く残っているため、比較は出てしまうと思いますが、あしからずご了承ください。

全国ツアー公演は初めての観劇。
平日昼の部なのに、開場すると入場口に長蛇の列が出来る人の多さに吃驚しました。お手洗いも凄く混んで、二幕に間に合わない人が続出して大変でした。
座席も含めて、ホールは結構広いんですね。こんな大きな舞台で「銀ちゃん」をやるなんて大丈夫か、と幕が開くまでは心配になりました。実際に開幕したらあまり気になりませんでしたが、やはり濃密な関係のお話だけに、狭い劇場で演じる方が合ってると思います。
音響は、とにかく難しい事が判明。1幕はマイクなしかと思うくらい効いておらず、初見では聞き取れなかったのでは。余程クレームがあったのか、逆に2幕はマイクが入り過ぎでエコーが掛かっているレベルでした。どちらにせよ聞き辛いけれど、明日はまた別の会場だから、調整とか出来ないんでしょうね。
お客さんは、全体にホットでした。笑いがもの凄く色々な場所で発生して、例えば人吉のヤス母との会話シーンなど、そこで笑うのか?と思うような場面もかなりウケていました。手拍子も熱く、パレードでは表打と裏打が入り乱れてもの凄いテンポになってました。
正直なところ、全国ツアーで「銀ちゃん」を演じることへの不安・不満もありましたが、客席の反応を見ている限りは“アリ”でした。

銀ちゃんこと倉丘銀四郎@大空祐飛は、台詞トチりや腕時計と思われる小道具を落とすなどのトラブルもありましたが、どこまでも「大空祐飛」ではなく「銀ちゃん」で、今見ているのは誰なのだろうと真剣に思いました。
ところで、羽根を背負って登場した瞬間、客席から大笑いされたトップスターってこれまでにいたでしょうか(笑)。電飾衣装のウケが凄く良くて、最後の大爆笑ポイントになっていました。

小夏@野々すみ花は、本当に当たり役。
前半は花組版よりぐっと大人っぽい小夏で、お腹が大きくなってからの方が少し若く感じました。
強いて苦言を呈すと、いつもこの身体の細さと美しさを保って欲しいのですが……。

実質的な主人公・ヤスこと平岡安次@北翔海莉。
「お前に才能があるのか!?」と怒鳴られたヤスが「ありません」と答えるシーン、前述通りマイクの調子が悪かったためか、何故か「あります」に聞こえました。
ただの空耳ですが、その空耳によって、なぜヤスは家庭内暴力に及ぶのか分かったように思います。
華形ヤスは、銀ちゃんとの依存関係を壊すことを考えていない。銀ちゃんが最優先で、純粋に階段落ちが巧くいかないかもしれない焦りと恐怖で、弱者たる小夏に八つ当たりをしていたと思います。つまり、ヤスも子供だった。
けれど北翔ヤスは、「銀ちゃんがなんだ」「俺はスターになりたい」と言う気持ちが根底にあるような感で、より原作のヤスに近いのではないかと思いました。
ところで、相当背中を丸めているのか、ヒールの差なのか、銀ちゃんより小さく視えて吃驚しました。

数少ない花組公演からの変更点である専務@悠未ひろのキャラ付けは、失敗してしまった気がします。ソロも追加されたので目立ちはするけれど、ラストで見せる思い切った行動の格好良さは減少して、結果、本作に沢山居るただの変人になってしまった気がします。
悠未ひろの使い方としても、勿体なかったですね。
逆に、朋子@すみれ乃麗と、女秘書@愛花ちさきは、二人の正しい使い方を見たように思います。女秘書は、ししとうのスナックから銀ちゃんがソロを歌い始めたとき、後ろでバタバタ動くのを控えて貰えれば、後は文句ありません。

橘@春風弥里は、ちょっと期待値を高くし過ぎていたでしょうか……。
花組版で演じていた真野すがたについて率直な感想を述べると、これと言って何が出来るわけでもない役者だと思うのですが、本人の「キャラ」で良い味を出していたことがよくわかりました。

監督@寿つかさは、過不足ない仕事ぶり。それより、バイトでこなしている人吉の会長が凄い良い味を出していました。立ち去る姿に、拍手が発生したくらいです。
トメ@風莉じんは、「ジャンピング土下座」を魅せてくれたので大満足。全体の雰囲気も壊さない、流石の芝居巧者でした。
残る子分のジミー@愛月ひかるは、空気が読めなくてちょっと美味しい奴だと判明。マコト@七海ひろきは、べったりした七三みたいな髪の毛でかなり挑戦していましたが、あまり印象に残りませんでした。保険屋との眼鏡対決くらいかな。
玉美@妃宮さくらは吃驚しました。オペラグラスを忘れたので顔をちゃんと確認できなかったけれど、かなり思い切ったメイクですね。感服します。
チーママ@花露すみかは、花組版の月野姫花の浮き世離れ感に対して、普通にいそうな地に足着いたママさん。どちらもアリだと思います。

階段落ちの演出は、少しずつヤスが階段を落ちてポーズを取ったところを、照明が当てて行くと言う形に変わっていました。前回のは眼がチカチカしたし、充分落ちている事が分かるので良いと思います。
今回新たに付けられたフィナーレへの繋ぎのため、ヤスの葬式で棺桶から出て来る銀ちゃんはカット。ちょっとオチが分かり難くなっちゃった気がします。
でも黒燕尾の男役によるダンスと、ちょっと吃驚するような接触があるデュエットダンスは良かったので、まぁフィナーレなしよりは良いでしょう。
ちなみに、男役ダンスで最初に悠未と春風がツートップで踊っていた際、長身の春風ですら小さく見える悠未の存在感に戦きました。あと、春風は凄く指先まで真剣に気合を入れて格好よく踊っているのに対し、悠未は経験値分余裕があるように見えたのも、面白かったです。

結局のところ、現時点では思い出補正もあって花組版の方が面白かったように思いますが、宙組版はまだ深化の余地があるとも思いましたので、全国でどう熟成されるか楽しみにしています。
と言いつつ、全国回った後の月末(相模大野公演)まで、残念ながらお預けです。