• 2014年03月25日登録記事

上橋菜穂子著「獣の奏者」闘蛇編・王獣編

国際アンデルセン賞・作家賞受賞おめでとうございます。
……ということで代表作に挑戦しました。
前後編。続刊もありますが、ここで一旦完結しています。

NHKアニメになったことを知っていたので、闘蛇編の時点では、少女の成長を描く児童文学かと思いましたが、最後まで読み終えてみると、このお話は大人こそ堪能できる味わいだと分かりました。色々な割り切れないテーマが盛り込まれていて、けれど各々に明確な回答や説明はなく、考えさせられます。
特に、人と獣が本当に心を通い合わせることは出来ないと描きながら、それでもエリンが心を掛けた分、リランも応えてくれているように見える描写には、そのバランス感覚が優しくも残酷でもあると思いました。

「守り人」シリーズ同様、世界観の作り方が巧み、且つ描写が丁寧なため、リョザ神王国がどこかで本当に存在しているように感じます。人と獣の関係、そして自然のダイナミックさが織り込まれていて、偉大な自然の中で人々が生きている雄大な景色が眼に浮かびました。

キャラクターたちは、それぞれの立場を全うしようと生きている人々ばかり。たとえ嫌な奴でも、その行動には理解できる理由がありました。
主人公のエリンは、健気だけれど意外と身勝手な面もある、等身大の少女でした。優秀すぎないお陰で、共感できる気がします。
イアルは、登場時点ではこういう役目を果たすとは思いませんでした。有能で優しい良い男で、こういう男が仕えているということから、真王ヨジュの格を高く感じられるのも凄いと思いました。