• 2014年03月28日登録記事

恩田陸著「ドミノ」

【あらすじ】
真夏の東京駅で、契約書を待つ事務員、買い出し中のOL、子役の少女、恋人たち、幹事長の座を争うミステリファン、句会のため上京した老人、警察のOB、テロリスト等と、それを取り巻く人々の運命が交差する。

非常に巧く構成されたドタバタ喜劇。
凄い。読み終わったあと、そう呟くしかありませんでした。

27人+1匹ものキャラクターがそれぞれ勝手に動き回って、最後に一極に集中し、お互いの行動が交わったことに気付かないまま、また分かれていきます。
とんでもない人数が同時に動いているのに、それぞれの動きがちゃんと繋がります。
ゲーマーなので、読んでいる間、「街 運命の交差点」や「428」といった傑作ADVのタイトルが思い浮かびました(2作とも未プレイですが)。

もっとも、登場人物の全員がバラバラの個人ではないため、幾つかのグループに分類分けできます。
私が分けると、こんな感じ。

  • 関東生命の人々+ピザ屋
  • お使い中の田上優子
  • 2組の子役と母親
  • 別れ話中の恋人+従姉
  • ミステリー関連チーム
  • 俳句会メンバー
  • 過激派テロ
  • 映画監督のペット・ダリオ

さて、成人が短期記憶できる平均アイテム数は7と言われています。上記のグループ数も、大体その前後の数にまとまります。
つまり、読者はまずグループごとに現在の状況を記憶し、そのグループの中で今誰がどうしているかを追えば良いので、「こんな大人数が1度に登場したら把握できない」と思っても、意外と楽に把握できてしまうのです。
とはいえ、各キャラクターの個性がしっかり出ているので、28の登場人物を描き分けた作者の苦労と工夫は大変なものだと思います。

お話自体は、はっきりいって荒唐無稽です。
不要な要素もあります。例えば田上宛の伝言が正しく伝わらなかった件は、その後まったく意味をなさないし、架線事故の原因になった置き傘の話も、物語の偶然性を高める要素なだけで、挿入される意味があったかというと難しいところです。
しかし小刻みに場面転換するテンポの良さで、楽しく読めました。