• 2014年04月15日登録記事

美奈川護著「ドラフィル! 竜ヶ坂商店街オーケストラの英雄」

【あらすじ(最後までのネタバレ有り)】
音大を卒業して無職の凡人ヴァイオリニスト・響介は、叔父の勧めで竜ヶ坂商店街のアマチュアオーケストラのコンマスに就任する。オケメンバーが抱える様々なトラブルを解決していく内に、響介はオーケストラという「家族」の1人としての自分と、音楽を愛する自分を認めるようになる。

オーケストラはいいなぁとつくづく思いました。
オーケストラがただの舞台設定ではなく、楽曲の描写や演奏や練習シーンにもしっかりページが割かれているので、小説という文字情報だけれど、音楽に触れているような手応えがありました。

お話は大体想定通りの展開をするのですが、ちゃんと主人公もその展開を予測した上で対応してくれるので、ストレスがありません。
最初は、主人公・響介は凡人、対する指揮者・七緒が強烈な個性の持ち主という構図だったので、ヒロインの強烈さで引っ張る作品かと思いましたが、響介も押しが弱いと言いつつ、自分の思うところはハッキリ言ったり筋を通す人でした。最終的には、響介が一番印象的だったかな。
演奏で悩むところはそんなにないので、響介は「親が望む天才」でない自分を認められないだけですよね。そう思って読んでいたので、ラストには、七緒を過去から解き放ち、それと同時に響介も「天才でなければならない」という呪縛から解き放たれたんだな、と思いました。

アマオケを描くお話ですが、資金繰りや活動場所で困ったりはせず、ある意味恵まれた人しか登場しません。
貧しい家庭の人々もいるけれど、大好きな音楽で食べているというだけで十分恵まれていると言えるし、七緒も、誰にも負けない才能と根性が残っている。
だから、あまり苦悩したりする展開はなく、リアリティに欠けているかも知れません。
でも、私はその変にウェットにならない軽さが、「ドラフィル」というオーケストラとこの作品の良いところだと思います。それだけに、最後の種明かしは作品の軽さに合わない気がして、少し違和感がありましたが……。
全体的には、面白かったです。