アレクサンドル・デュマ著 榊原晃三訳「王妃マルゴ」
【あらすじ(最後までのネタバレ有り)】
国王の妹マルゴは、融和政策のため新教派のナヴァール王アンリに嫁ぐが、婚姻のため集まった新教派が虐殺される。マルゴは妻の義務としてアンリを数々の暗殺計画から助けるが、代償に愛人を失う。
一見華やかなフランス宮廷に蠢く、不倫と毒と陰謀の劇。
親兄弟でも平然と敵対し探り合うのが凄まじいですね。それでも、マルゴは愛してはいないナヴァール王アンリを、妻としてはちゃんと補佐するのが不思議です。自分自身の野心を満たすため、というほどの地位に対する執着も感じなかったし、貞淑なわけでもないし、不思議なキャラクターです。
序盤は状況も分からない内に大量の人物が登場するので混乱しましたが、ナヴァール王アンリが遅い来る危機を、強運と協力者と観察眼をもって脱出していくお話なのだと認識できてからは面白かったです。
ただ、アンリが友人も恋人も失って逃げていくところで終わるため、ちょっと締まらない気がしましたが、敢えてそこまで書いておいて王位を手に入れるところは描かないところに、デュマの描こうとした何かがあるのでしょうが……
それを読み解こうとするには、率直に言って、翻訳が不出来だと思いました。
新訳が出ているなら、読み直したいですね。それとも、映画の方が分かりやすいでしょうか。
シャルル九世は情緒不安定で、上巻では何がしたいのか気持ちが見えず薄気味悪い存在でしたが、アンリに命を助けられてからは協力者寄りの立場に立ってくれますし、アンリを狙った毒で一人死んでいく終盤は哀れなものでした。弟のアンジュー公アンリは国王の座を争う相手ですが、母親がお膳立てしているせいか、あまり印象に残りません。あれこれと策略を巡らせるアランソンの方が、小悪党ながら印象的でした。