• 2015年10月26日登録記事

荒木源著「ちょんまげぷりん」

【あらすじ(最後までのネタバレ有り)】
シングルマザーのひろ子は、文政九年からタイムスリップした侍・木島安兵衛を拾う。ひろ子への恩返しに家事を始めた安兵衛は菓子作りにハマり、天才パティシエとして時の人になる。無役の小普請組だった安兵衛は働く喜びを実感し、ひろ子も刺激を受け仕事のやりがいや、子供と真剣に向き合う大切さを思い出す。やがて忽然と消えた安兵衛だったが、ひろ子は彼が江戸でも菓子を作り続けたらしい痕跡を見付ける。

単行本「ふしぎの国の安兵衛」を文庫化にあたり改題したそうですが、改題して大正解だと思います。
設定も表紙もタイトルも漫画みたいですが、実際、サクサクと読める娯楽作品でした。
ただ、表紙の侍は、本編の安兵衛の風貌とまったく異なるので、どこかに小さく「イメージです」と書いておくべきですね(笑)。

タイムスリップで結ばれない男女が巡り合う話なのに、恋愛ではなく、勤労の喜びがテーマで、その点はとても好みでした。ただし、主人公ひろ子の序盤の仕事描写に共感できなかったので、彼女の働く姿に感化されるというのは、少し複雑でした。
共働きで、実家の手助けなしに子育てしつつ、キャリアも積んでいる奥さまを複数人知っているので、「こんなに大変な思いをしている」というアピールをされると、正直興醒めします。
前夫が共働きを強要したわけでないし、結局前職を辞めているということは、その仕事に固執していたわけでもなく、ひろ子の仕事に対するスタンスは中途半端な気がします。そもそも彼女に余裕がないのは、周囲の無理解以前に、スキルがないのにSEをやっているという間違いにあるのではないでしょうか。最初の仕事エピソードなどは、田中も確かにダメ社員だけれど、開発期間に、全体企画書すらない状態で、それなのに部分仕様書を書いているという仕事の進め方に問題を感じてしまいました。SE業界ではこういうものなんでしょうか。

現代人の在り方に、江戸時代の価値観で切り込む安兵衛が痛快で面白かったです。