2008年4月1日エイプリルフール限定公開したBLEACHサイトより、そろそろ時効と言うことで収録。
コミックス20巻ネタバレ+カラブリネタです。
今年も、柿は生った。
三番隊隊舎の庭には柿の木がある。吉良が三番隊に配属されて以来数十年間、毎年実を生したこの木は、隊首が手ずから植え育てた渋柿である。
――だからこそ。
吉良は独り、朱色の実を見上げた。
隊首の如き柿への思い入れはない。それどころか、干した果物に共通する独特の甘みを苦手としていた吉良は、執務室から見える柿の木を気にしながらも、多忙を言い訳に、剪定も摘蕾も行いはしなかった。
だと言うのに、葉が枯草に変じ始めたのと引き換えに、実は鮮やかな丹へ色付いた。
――今年は生らないと思っていた。
気紛れでひとつところには収まらない隊首であったが、柿の木に関してだけは別で、年中手入れを欠かさなかったから、柿もその愛情に応えるのだと、どこかで信じていた。だと言うのに!
これは明白な裏切りだ。
そしてそう感じた自分自身に、吉良は愕然とした。己はまだ彼の隊主に囚われ続けている。裏切ったのは、隊首の方だと言うのに。
今年も、柿は生った。
「柿が生る あああ今年も 柿が生る」に対する、一つのアンチテーゼのつもりでした。
あと、雰囲気の問題でカタカナを書きたくなかったので名字表記しましたが、吉良と書くと別人みたいだと思いながら書いた記憶があります。