• 2013年03月18日登録記事

五十音順キャラクター・ショートショート【り】
→ルールは2012年12月17日記事参照


 隣国の王妃を見舞い、夫の悪口を散々聞かされて退出したところで、当の国王と出会した。
 一瞬、悪戯を見咎められたような居心地の悪さがあったが、そこで萎縮する柔な姫君ではなかったので、リーズラインはこの機に思う存分、噂ばかり耳にするこの王を観察してやった。
(言われるほど、悪い男ではなさそうじゃが)
 柔らかい笑みを浮かべる王は、妃が語るほど無思慮な野蛮人には見えない。どちらかと言えば、温和で頼りない男だ。
(若長が期待したような名君にも見えぬ)
 リーズラインの友人たちは、この王に一族の未来を託した。その決断は誤りでなかったと思いたいが、今のところ確証は得られない。
(グラスターシャもサラも、シヴァ王は「ぽややん」じゃと言っておったからのぅ)
 親友たちの評を思い出して、リーズラインは頷いた。
「……あの、姫?」
 二度躊躇った後にそう呼び掛けて、シヴァ王は笑みを困った色に変えた。
 続く言葉を待って、リーズラインは首を傾げる。ふと、王の後ろに控えた側近が迷惑そうな表情で睥睨してくるのを見て、自分が進路を塞いでいたことに気が付いた。
 この王は、自己主張すら臣下に劣る。
「うむ、邪魔をしたのじゃ」
 リーズラインは胸を張って道を開けてやった。だが――
「どうぞ、これからも妻と仲良くしてやってください」
 思いがけない言葉に、リーズラインは目を見張った。
 リーズラインは何処に行っても敬遠されることが多い。なんせ、あの母の娘だ。それは致し方ない。幼少を魔族の都で過ごした為か、少し他人と違うところがあるのも事実だ。
(……ちょっと良いやつかも知れぬの)
 ほんの少しだけ評価を上方修正してやることにして、リーズラインは頷いた。
 そういえば、彼の妃は采東の姫だから、この異国では友だちもいないだろう。
(リーズラインが友だち一号で――そのうち、サラを紹介してやろう)
 クシアラータの元王女なら、お互いが知るシヴァ王の話題で盛り上がるはずだ。
 その気配りが別の騒動を起こすとは知らず、爛漫な姫君と隣国の王は笑顔を交わした。

隣人とは仲良く
……リーズライン(小説「クシアラータの覇王」)


最初は、シヴァの事務次官に転職したギザニエと再会する話にしようと思ったのですが、ギザニエと姫では話が盛り上がりませんでした。

古い作品なので軽くご紹介しておくと、講談社X文庫ホワイトハートで発行された、高瀬美恵作の本編全10巻+外伝2巻からなる小説です。
最初は復讐譚で、4巻辺りからギャグ&ラブコメ路線になっていく上に、アオリ文句は「運命の王女サラの物語」なのに、主人公はシヴァ王だったという変なシリーズですが、結構好きでした。