• 2016年03月06日登録記事

越谷オサム著「いとみち」

【あらすじ(最後までのネタバレ有り)】
女子高生の相馬いとは、人見知りを治す目的と衣装への憧れから、メイドカフェでアルバイトを始める。ドジを繰り返すいとだったが、店の仲間と過ごす内に成長していく。やがてメイドカフェが閉店の危機を迎えると、いとは大好きな場所と人々を守るため立ち上がり、自分自身を認められるようになっていた。

定番の台詞「お帰りなさいませ、ご主人様」を、訛りのせいで「ごスずんさま」としか言えない主人公いとの他、津軽弁でのやり取りが非常に楽しい作品。
方言はそのまま音で表記されているため、台詞がすべて平仮名ということもあるのですが、これを自分で声に出して読むと非常に楽しく、ニマニマします。その上、いとの上を行く「若い世代に通じない津軽弁」使いである祖母の発言を記号で表すという卑怯な表現方法には、一瞬面食らったあと大笑いしました。

地味なお話だ、と最初は感じたのですが、読み終わって改めて考えるとキャラクターの設定自体はかなり派手で、立っています。特にお店の仲間は個性的です。
けれど、子持ちのメイド長の幸子が抱く、ワーキングマザーならではの店への感謝の気持ちや、いとが好きな三味線を弾かなくなってしまった、思春期の少女らしい理由などはリアルでしたし、それ故に登場人物を応援したくなりました。
善人ばかりでとても優しい世界は、古き良き田舎という幻想なのかもしれないけれど、ピュアで嫌味のない、素敵な作品だと思います。

笑えるだけでなく、いとが父親とぶつかるシーンでは、共感のあまり思わず涙しそうになりました。
私も、言いたいことはあっても巧く相手を納得させられるような表現ができなかったりして、もどかしさの余り泣いたことがあるので、余計彼女に肩入れしたくなったのかも知れません。
年齢的に、親の意見も理解できるので、俯瞰的な視点ではまた違う気持ちも持ったりするのですが、多角的に色々な視点で読めるということは、それだけ良く出来た作品なのだろうと思います。