• 2016年03月29日登録記事

河出文庫で見付けた食談集3編。
これ以外も、一目見て「食エッセイ」と分かるものが多かったので、もしかすると河出文庫は食談の大御所なのでしょうか。

古川緑波著「ロッパ食談 完全版」

実際に店名を上げて書いているのに、褒めるだけでなく、不味いところは不味いと書いてあるのが凄い本。他人へのお勧めというより、純粋に食いしん坊が、自分の食の志向をユーモアを交えつつ語っている形式です。時代が古い話なので、自分が使う店の指針としては使えません。
文章のテンポが良く、元編集者として美食の作家達のエピソード、菊池寛、久保田万太郎の話も出てくるので、楽しみつつ読めました。
また、立川志らくの解説文が優れています。

ところで、私の母は明治維新(1868年)の話になると、必ず「いやぁロッパさん、明治だね」という語呂合わせを口にします。長年、「ロッパさんって誰やねん」と思っていたのですが、今回この本を読むことでようやく古川緑波氏を認識できました。

村松友視著「私、丼ものの味方です」

こちらはもう少し軽く、身近な食の話。
タイトルから丼ものに限定した話と思い込んだのですが、多岐に渡っていました。
魚、カレー、和菓子、酒など、ジャンル分けされているので読みやすいし、文章も素直で読みやすいですが……取り留めのない雑文という感じ。
伊丹十三との関わりを語るエピソードは面白かったです。
その他は、誌面の端に載っている分には薬にも毒にもならず構わないけれど、わざわざまとめて読むほどの価値は感じられませんでした。

石井好子著「巴里の空の下オムレツのにおいは流れる」

これぞ読みたかった食談!
文章だけで、描かれている食事の匂いまで感じられます。よく食べるだけでなく、自分でも作ってはそのレシピを説明しているため、お料理本のようですらあります。空腹時に読むと、酷い「飯テロ」を受けることになりました。
今では目新しくもない食材や調理法が、珍しい話として描かれていて、時代を感じる箇所もありますが、全体的には古さを感じさせない、生き生きとした息吹を感じる軽やかな文章でした。